クロガシラウミヘビ

Hydrophis melanocephalus Gray, 1849

爬虫綱 > 有鱗目 > コブラ科 > ウミヘビ亜科 > ウミヘビ属 > クロガシラウミヘビ

  • 成体・沖縄本島
概要

[大きさ] 

  • 最大全長で雌は140 cm、雄は110 cm。

[説明]

  • 琉球列島からベトナムにかけて、沿岸部の浅い砂泥底やサンゴ礁周辺で見られる。
  • 完全水棲で、自ら陸に上がることはない。腹板は小さく退化し、尾はへら状になっている。
  • 背面は黄色がかった灰色、腹面はクリーム色。全身に渡って40-50本の黒い帯が並ぶ。
  • 非常に強い筋肉毒・神経毒を持ち、噛みつくこともあるので触るべきではない。
  • 胴体に対し頭と首がとても細い。アナゴ型の細長い魚類を主に捕食し、小さな頭は砂に頭を突っ込んでこれらの魚を獲るのに適している。
  • 胎生で、夏から秋にかけて1〜8匹の仔ヘビを海中で産む。
  • 沖縄の海でダイビング中に見られることがある。

[保全状況]

  • IUCNレッドリスト:情報不足(DD)
  • 環境省レッドデータブック指定:なし
  • 都道府県レッドデータブック指定:なし
分布

[分布]

  • 琉球列島からベトナムにかけて[1]。本州での記録もあるが、海流によって流れ着いた個体で、定着はしていないと考えられる[2]。

[生息環境]

  • 沿岸域の浅海。内湾や海草藻場、サンゴ礁周辺で、砂質あるいは泥質の場所に多い[3, 4]。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > コブラ科 > ウミヘビ亜科 > ウミヘビ属 > クロガシラウミヘビ

[タイプ産地] 

  • インド洋(採集者:Belcher)

[説明]

  • 本種が属するHydrophis属は現生の爬虫類の中でも最も急速な種分化を遂げてきた分類群である。本属は150–750万年に共通祖先が存在したとされ[5, 6, 7]、2021年現在では50種近くが知られている[8]。
  • クロガシラウミヘビと最も近縁な種はマダラウミヘビHydrophis cyanocinctusとされる[1, 6]。クロガシラウミヘビはその分布の全域でマダラウミヘビと共存していると考えられている。東南アジアではクロガシラウミヘビは頭部が小さく、マダラウミヘビは頭部が大きいことで区別され、この形質は、前者はアナゴ科とウミヘビ科の細長い魚類の専食、後者はハゼ類などを捕食する食性と関連していると考えられている[1]。しかし、琉球列島の個体群に関しては、両種を明確に判別できる形質が、頭部サイズを含め、何も見つかっていない[9]ため、両種を含む複合種群の分類学的検討が必要とされる。
体の特徴

[形態]

  • 尾はへら状に側扁し、水中で推進力を得やすい形になっている(ウミヘビ共通)。
  • 鼻孔は頭部の上にあり、水面での呼吸をしやすくなっている。また、鼻孔を閉じる弁があり、水中で閉じることができる(ウミヘビ共通)。
  • 最大全長は雌130 cm、雄110 cm。尾は全長の10%程度を占める[10]。
  • 頭部が小さく、頸部が細い特徴的な体型をしている。これは本種を含め、複数種のHydrophis属ウミヘビに見られる特徴で、砂地の穴に潜むアナゴ科やウミヘビ科の細長い魚類を専食するための適応と考えられている[1, 7]。
  • 背面は背面は青黒く、腹面および側面は黄色。黒色横帯が胴に46–64本、尾に4–9本並ぶ[10]。
  • 体鱗列数は頸部で24–31、胴部で25–40。腹板数は290–357。尾下板は雌で31–49、雄で35–49[10]。

[似た種との違い]

日本で同所的に見られる似た種との見分け方を解説する。

  • マダラウミヘビ:クロガシラウミヘビと最も近縁な種。現状では日本に生息する個体に関して両種を判別できる形質はない[9]。今後の分類学的研究が待たれる。
  • クロボシウミヘビ:クロボシウミヘビは黒色横帯が腹側に向かって狭まり、横から見ると逆三角形に見える。さらに、腹板数210–310で、胴部が比較的太短く頭部が大きい。対してクロガシラウミヘビは黒色横帯が腹側まで続き、腹板数290–357。体型は細長く、頭部が小さい[11, 12]。
  • イイジマウミヘビ:イイジマウミヘビは黒色横帯の輪郭が不規則(ジグザグ型)で、背面から見た横帯は左右で不整合。体が短く、腹板数は134–144。
  • シマウミヘビ・ソラウミヘビ(魚類):非常に紛らわしいが、魚類でもウミヘビ科(Ophichthidae)に属し、和名でウミヘビと呼ばれる種がいる。その中でもシマウミヘビ Myrichthys colubrinus とソラウミヘビ Leiuranus semicinctus は白地に黒い横帯(後者は腹側で途切れる)があり、同所的に生息する爬虫類のウミヘビと見間違えやすい。簡単な見分け方として、爬虫類のウミヘビは尾が丸いひれ状になっているが、魚類のウミヘビは細長く尖っている。
クロボシウミヘビイイジマウミヘビ
生態

[食性]

  • ウミヘビ科(Ophichthidae)やアナゴ科(Congridae)に属する細長い魚類を主に捕食する[1, 3, 4]。砂に潜っている餌に対し、細長い体前半部を砂中に埋めて捕らえる。獲物に噛みついた後は砂から引きずり出して水面まで運ぶこともある[3, 4]。水槽実験でも、チンアナゴとマアナゴの匂いによく反応するが、その他の魚にはあまり反応しないことが示されている[13]。

[捕食]

八重山諸島ではイタチザメに捕食されている[14]。サメ以外ではあまり捕食者はいないと考えられる。

[繁殖]

  • 胎生。8–12月に1–8匹の仔を出産する[2, 15]。繁殖行動については不明な点が多い。

[毒性]

  • 本種が含まれる胎生ウミヘビ類(ウミヘビ亜科)の咬症では、局所に痛みや腫れは認められないことが多い。続いて短時間のうちに筋肉毒の作用で全身の筋肉痛が始まる。また、しばしば黒色あるいは褐色のミオグロビン尿が出る。死因としては初期の死亡では喉の痺れと嘔吐により気管を詰まらせて呼吸困難を起こしたり、筋肉の衰弱による呼吸不全になる場合で、ついで高カリウム血症による心不全、急性腎不全である[16]。
  • 奄美大島で本種による咬症例がある[17]。患者は咬まれてから2時間程度で視界が霞み、筋肉痛が起こったが、病院で輸液とステロイド、抗生物質の投与を受けた結果、命に別状はなかった。筋肉痛はウミヘビの筋肉毒によるものと考えられる。軽症で済んだのはウミヘビの頭部が小さいために、注入される毒量が少なかったためと考えられる。
その他

執筆者:藤島幹汰


引用・参考文献

  1. Sanders, K. L., Rasmussen, A. R., Elmberg, J., De Silva, A., Guinea, M. L., & Lee, M. S. (2013). Recent rapid speciation and ecomorph divergence in Indo‐Australian sea snakes. Molecular ecology, 22(10), 2742-2759.
  2. Masunaga, G., Nagai, Y., Tanase, H., & Ota, H. (2005). A record of the black-headed sea snake, Hydrophis melanocephalus (Reptilia: Elapidae), from Wakayama Prefecture, Japan. Current herpetology, 24(1), 37-41.
  3. Takahashi, H. (1981). The feeding behaviour of a seasnake, Hydrophis melanocephalus Gray. The Snake 13: 158-159.
  4. 戸田守,杜銘章.(2015). クロガシラウミヘビによる餌のハンドリング行動の観察.爬虫両棲類学会報.2015: 120-122.
  5. Sanders, K. L., Lee, M. S., Bertozzi, T., & Rasmussen, A. R. (2013). Multilocus phylogeny and recent rapid radiation of the viviparous sea snakes (Elapidae: Hydrophiinae). Molecular Phylogenetics and Evolution66(3), 575-591.
  6. Lee, M. S., Sanders, K. L., King, B., & Palci, A. (2016). Diversification rates and phenotypic evolution in venomous snakes (Elapidae). Royal Society open science3(1), 150277.
  7. Sherratt, E., Rasmussen, A. R., & Sanders, K. L. (2018). Trophic specialization drives morphological evolution in sea snakes. Royal Society open science5(3), 172141.
  8. Uetz P, Freed P, Hošek J (2020) The Reptile Database <http://www.reptile-database.org> accessed 19 February 2021
  9. Tandavanitj, N. (2013) Population genetics and taxonomic study of laticaudine and hydrophiine sea snakes in the islands of East Asia. Ph.D. Thesis. Graduate School of Engineering and Science, University of the Ryukyus.
  10. 牧茂一郎.(1931). 原色版日本産蛇類圖説.第一書房.東京.
  11. Toriba, M. (1994). Sea snakes of Japan. In. P. Gopalakrishnakone ed.Sea snake toxinology, pp. 206-211. Coronet Books Inc.
  12. 吉郷英範.2020.庄原市比和科学博物館に収蔵されている爬虫類のウミヘビ類(有鱗目:コブラ科)と日本産既知種の判別.比和科学博物館標本資料報告. 20: 52–73.
  13. Kutsuma, R., Sasai, T., & Kishida, T. (2018). How snakes find prey underwater: sea snakes use visual and chemical cues for foraging. Zoological science35(6), 483-486.
  14. Masunaga, G., Kosuge, T., Asai, N., & Ota, H. (2008). Shark predation of sea snakes (Reptilia: Elapidae) in the shallow waters around the Yaeyama Islands of the southern Ryukyus, Japan. Marine Biodiversity Records1.
  15. Mao, S.H., Chen, B.Y. (1980) The Sea Snakes of Taiwan. NSC Special Publications, No. 4, National Science Council, Taipei
  16. Reid, H.A. 1975. Epidemiology and clinical aspects of sea snake bites. p. 417-462. In : W. A. Dunson (ed.) The Biology of Sea Snakes. Univ. Park Press, Baltimore
  17. Asanuma, E., Otuji, T., Nakamoto, E., Kawamura, Y., & Tobriba, M. (1998). Report of the sea snake bite by Hydrophis melanocephalus at Amami-oshima island, Japan. The SNAKE28, 62-64.

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