ヒロオウミヘビ

Laticauda laticaudata(Linnaeus, 1758)

爬虫綱 > 有隣目 > ヘビ亜目 > コブラ科 > エラブウミヘビ亜科 > エラブウミヘビ属 > ヒロオウミヘビ

  • 沖縄島
概要

[大きさ] 

  • 全長70〜120cm。体型はエラブウミヘビ L. semifasciata と比較して細長い。

[毒性] 

  • 有毒。毒性は非常に強い。特別攻撃的な種ではないがむやみに触らないこと。

[説明]

  • ウミヘビの中でも自ら陸に上がるグループに属する。陸地で休息、水分摂取、産卵を行い、餌を獲るために海に潜る。
  • ウミヘビ科(魚類)やウツボ科の細長い魚類を専門に捕食する。

[保全状況]

  • IUCN Red List: 低危険種(LC)
分布

[分布]

  • 琉球列島から東南アジア、オセアニア、インド洋の浅海域[5]。
  • 国内での分布はエラブウミヘビとほぼ重なっており、南西諸島のほぼ全域で見られる。知られている繁殖地の北限は鹿児島県三島村の硫黄島。九州や本州沿岸で見つかることもあるが、黒潮によって流されたものと考えられる[20]。
  • 基本的に琉球列島が本種の生息の北限とされる[7]が、近年、朝鮮半島沖の済州島でも見つかった[3]。ここ数年、韓国では同属種エラブウミヘビの報告も増えており、気候変動による水温上昇の影響が示唆されている[4]。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有隣目 > ヘビ亜目 > コブラ科 > エラブウミヘビ亜科 > エラブウミヘビ属 > ヒロオウミヘビ

[タイプ産地] 

  • Indiis (Andersson 1899[1])

[説明]

  • 最も近縁な種は、かつてヒロオウミヘビの一亜種 L. laticaudata wolffii とされていたクロッカーウミヘビ L. crockeri である。クロッカーウミヘビは、ソロモン諸島レンネル島の汽水湖であるテンガノ湖の固有種であり、海水面の低下、あるいは環礁の隆起によって湖に取り残されたことで種分化したとされる[5]。
体の特徴

[形態][8, 14]

  • 頭胴長60〜110cm、尾長6〜11cm。尾は全長の9〜11%程度を占め、オスの方が尾が少し長い。
  • 体鱗列数19、稀に21。腹板は232〜252枚。尾下板はメスで30〜45枚、オスで38〜48枚。
  • 背面は青色で、胴に25〜70本、尾に3〜7本の黒色の横帯がある。腹面は黄色。黒い帯は青色の部分よりも幅が広い。
  • 頭部は黒く、頭頂に白色〜薄青色の馬蹄型の紋様がある。上唇は黒褐色または黒色。頭部は頸部の太さよりも小さい。
  • 尾は著しく側扁し、へら状になっている。

[似た種との違い][8]

  • エラブウミヘビ:エラブウミヘビは黒褐色の横帯が明るい部分よりも幅広く、腹面に向かって狭くなる。またヒロオウミヘビの方が全体的に細長い。
  • アオマダラウミヘビ:アオマダラウミヘビは黒褐色の横帯が明るい部分より狭く、上唇が黄色であることで区別できる。
生態

[食性]

  • ウミヘビ科、ウツボ科、アナゴ科の細長い魚類を専食する[11–13]。

[毒性]

  • 非常に強い神経毒を持つ。本種の毒のマウスに対するLD50値は0.17 μg/gであり、本種の毒からシナプス後部神経毒のLaticotoxin aが単離されている[15]。
  • 1943年に沖縄県知念村久高島のウミヘビを捕獲する洞穴(イラブーガマ)の中でウミヘビ(方言名:ソーイラブー)の捕獲中にLaticauda属の一種に成人女性が咬まれて受傷後約2時間30分で死亡した例がある[21]。久高島では主に旧暦の6–8月、エラブウミヘビは9–12月に捕獲されるとのことで、捕獲時期(旧暦の7月)から咬症はヒロオウミヘビによるものの可能性が高いが、エラブウミヘビと捕獲時期は完全に分離しておらず、後者である可能性も考えられる。
  • 同属種のエラブウミヘビやアオマダラウミヘビが非常におとなしいのに対し、本種は捕まえた際に口を開けて咬もうとすることがある。沖縄のウミヘビ獲りの女性の間ではエラブウミヘビは危険視されないが本種は危険であると伝えられ、西表島ではウミヘビ獲り業者の男性が咬まれて死亡したという話がある[22]。

[生態]

  • 本種を含むエラブウミヘビ属 Laticauda のヘビは半水棲であり、海で採餌をし、陸で休息、消化、脱皮、交尾、産卵を行う[9]。Laticaudaは陸上では比較的不活発であり、陸上での捕食者たりうる哺乳類、鳥類、爬虫類の少ない、あるいは生息していない島嶼部に多い。
  • 陸上に上がる傾向はエラブウミヘビと比べると高く、アオマダラウミヘビより低い[16–18]。ただし、水中・陸上での移動速度は3種の中で最も低い[18]。
  • 主な捕食者はサメやその他の大型魚類だと考えられる[10]。

[寄生虫]

  • 体表にしばしばウミヘビキララマダニ (Amblyomma nitidum)が、気管および肺にはツツガムシ類が寄生する[19]。
その他

執筆者:藤島幹汰(最終更新2025年1月25日)


引用・参考文献

  1. Andersson, L.G. (1899). Catalogue of Linnean type-specimens of snakes in the Royal Museum in Stockholm. [type catalogue] Bihang till Konglika Svenska Vetenskaps-Akademiens. Handlingar, Stockholm. 24: 1-34
  2. Cogger, H., Heatwole, H., Ishikawa, Y., McCoy, M., Tamiya, N., & Teruuchi, T. (1987). The status and natural history of the Rennell Island sea krait, ,Laticauda crockeri (Serpentes: Laticaudidae). Journal of Herpetology, 255-266.
  3. Park, J., Koo, K. S., Il-Hun, K. I. M., Choi, W. J., & Park, D. (2017). First Record of the Blue-banded Sea Krait (Laticauda laticaudata, Reptilia: Squamata: Elapidae: Laticaudinae) on Jeju Island, South Korea. Asian Herpetological Research, 8(2), 131-136.
  4. Park, J., Kim, I. H., Fong, J. J., Koo, K. S., Choi, W. J., Tsai, T. S., & Park, D. (2017). Northward dispersal of sea kraits (Laticauda semifasciata) beyond their typical range. PloS one, 12(6), e0179871.
  5. Heatwole, H., Grech, A., & Marsh, H. (2017). Paleoclimatology, paleogeography, and the evolution and distribution of sea kraits (Serpentes; Elapidae; Laticauda). Herpetological Monographs, 31(1), 1-17.
  6. Tabata, R., Tashiro, F., Nishizawa, H., Takagi, J., Kidera, N., & Mitamura, H. (2017). Stomach contents of three sea kraits (Hydrophiinae: Laticauda spp.) in the Ryukyu Islands, Japan. Current herpetology, 36(2), 127-134.
  7. Gherghel, I., Papeş, M., Brischoux, F., Sahlean, T., & Strugariu, A. (2016). A revision of the distribution of sea kraits (Reptilia, Laticauda) with an updated occurrence dataset for ecological and conservation research. ZooKeys, (569), 135.
  8. 牧茂一郎. (1931). 原色版日本蛇類圖説. 第一書房, 東京.
  9. Heatwole H. (1999). Sea Snakes. Aust. Nat. Hist. Ser., Univ. of New SouthWales, Sydney.
  10. Brischoux, F., Bonnet, X., & Shine, R. (2011). Conflicts between feeding and reproduction in amphibious snakes (sea kraits, Laticauda spp.). Austral Ecology, 36(1), 46-52.
  11. Brischoux, F., Bonnet, X., & Shine, R. (2007). Foraging ecology of sea kraits Laticauda spp. in the Neo-Caledonian Lagoon. Marine Ecology Progress Series350, 145-151.
  12. Brischoux, F., Bonnet, X., & Shine, R. (2009). Determinants of dietary specialization: a comparison of two sympatric species of sea snakes. Oikos118(1), 145-151.
  13. Tabata, R., Tashiro, F., Nishizawa, H., Takagi, J., Kidera, N., & Mitamura, H. (2017). Stomach contents of three sea kraits (Hydrophiinae: Laticauda spp.) in the Ryukyu Islands, Japan. Current herpetology36(2), 127-134.
  14. 日本爬虫両棲類学会 編. (2021). 新日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版. 彦根.
  15. Sato, S., Yoshida, H., Abe, H., & Tamiya, N. (1969). Properties and biosynthesis of a neurotoxic protein of the venoms of sea snakes Laticauda laticaudata and Laticauda colubrina. Biochemical Journal115(1), 85-90.
  16. Bonnet, X., Ineich, I., & Shine, R. (2005). Terrestrial locomotion in sea snakes: the effects of sex and species on cliff-climbing ability in sea kraits (Serpentes, Elapidae, Laticauda). Biological Journal of the Linnean Society85(4), 433-441.
  17. Lillywhite, H. B., Menon, J. G., Menon, G. K., Sheehy 3rd, C. M., & Tu, M. C. (2009). Water exchange and permeability properties of the skin in three species of amphibious sea snakes (Laticauda spp.). Journal of Experimental Biology212(12), 1921-1929.
  18. Wang, S., Lillywhite, H. B., & Tu, M. C. (2013). Locomotor performance of three sympatric species of sea kraits (Laticauda spp.) from Orchid Island, Taiwan. Zoological Studies52, 1-7.
  19. 林文男, 増永元. 日本産ウミヘビ類に寄生するマダニ類とツツガムシ類の生態. 日本ダニ学会誌, 10: 1–17.
  20. 沖縄県文化環境部自然保護課. 2017. 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編- 爬虫類
  21. 新城安哲, 富原靖博 (1989) 沖縄県で発生したウミヘビ咬症II. 平成元年度抗毒素研究報告書別刷. 39–44.
  22. 田原義太慶, 福山伊吹, 福山亮部, 堺淳. 2024. 日本ヘビ類大全. 誠文堂新光社. 東京.

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