Onychodactylus japonicus (Houttuyn, 1782)
両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > ハコネサンショウウオ属 > ハコネサンショウウオ
概要
[大きさ]
[説明]
背中にある赤~橙黄色の帯状模様が特徴的な渓流性のサンショウウオ
渓流の源流部、光の差し込まない奥深くに産卵する
クモ、昆虫、ヤスデ、ワラジムシなどを捕食する
[保全状況]
神奈川県箱根町では天然記念物に指定されている[3]。
分布
[分布]
[生息環境]
山地に生息し、2000mを超える高地まで分布する。ただし日本海側では標高20~30mの低地に産することがある。
成体は昼間は林床の岩石、倒木の下などに潜み、夜間に活動する。[6, 8]
分類
[分類]
両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 >ハコネサンショウウオ属 > ハコネサンショウウオ
[タイプ産地]
[説明]
日本に産するハコネサンショウウオ属は長く本種 Onychodactylus japonicus のみと考えられていたが、近年の研究により7種に分割された。[12]
体の特徴
[形態]
地色は暗褐色で、背面には赤~黄色の帯模様が入る。不規則な細かい斑点が散って帯模様を形作る場合もある。
全長の半分ほどになる長い尾を持ち、目は大きく突出している。
繁殖期には雌雄ともに四肢に黒い爪が生える。また繁殖期のオスでは後足のふちが肥大し、足の裏は黒色の小突起が見られるようになる。
成体になっても肺を持たない。
[似た種との違い]
複数のサンショウウオ属の種(ヒダサンショウウオ、チュウゴクブチサンショウウオなど)が地域によっては同所的に分布するが、ハコネサンショウウオは背中に赤っぽい帯状模様をもち、尾が長く、華奢な体型をしているため容易に区別できる。
チュウゴクブチサンショウウオ
ヒダサンショウウオ
同属(ハコネサンショウウオ属)では、シコクハコネサンショウウオが中国地方の山地において同所的に分布する。見分け方はシコクハコネサンショウウオのページを参照。
シコクハコネサンショウウオ
ハコネサンショウウオ
生態
[食性]
成体はクモ、昆虫、ヤスデ、ワラジムシなどを捕食する[8,10]
[被食]
小型哺乳類、渓流魚、カワガラス、ヤマカガシによって捕食されることが報告されている[11]
[繁殖]
繁殖期は5月~8月初旬で、1繁殖場所では1ヶ月ほど。石川県では初夏(4~6月)と晩秋(10~12月)の年2回産卵期がある個体群が見つかっている。[2,7]
繁殖行動については飼育下における観察がある。メスから生み出されつつある卵をオスが抱え込むようにして抱き着き、受精させる。このときオスが卵を引っ張るため、「助産行動」と呼ぶことがある。実際、オスがいることでメスの産卵がスムーズになり、メスだけで卵を産むときよりもずっと短い時間で産卵を終える。[7]
産卵時期の初期にはオスが繁殖場所に多く集まり、後期になると繁殖場所にいるメスの比率が上がる。全体としての性比はオスにやや偏るようだ。[7,8]
[卵]
1匹のメスが1対2個の卵のうを産み、合わせて十数個の卵が含まれる[1]。
卵は、水源に近い渓流で岩盤の隙間やガレの奥など光の差さない場所に産み付けられる[1,7]。
[幼生]
冬に孵化した幼生はしばらく伏流水中にとどまり、春になると渓流中に流れ出るようだ。2~3年後、変態して上陸する。[1,4]
幼生はトビケラやハエ目の幼虫などを捕食する[9]。
その他
[文化]
繁殖期に水に入る成体を捕獲し燻製にすることは昔から箱根、奥日光、会津地方など各地で行われてきた。ムジリと呼ばれる漁具を沢にしかけ、流された成体がそこに入るようにする。翌日これを集めて薄い塩水で殺し、燻製に仕上げる。戦前の文献によれば各村で毎年数万匹以上が漁獲されていたという。[7]
かつては幼生を生で飲むと子供の病気に効くという民間療法があったらしい。[5]
執筆者:木村楓 2023年10月23日 ホムラハコネサンショウウオの新種記載を受けて一部改定
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引用・参考文献
秋田喜憲. (1982). 宝達山のハコネサンショウウオの産卵場. 爬虫両棲類学雑誌, 9(4), 111-117.
秋田喜憲, & 宮崎光二. (1991). 宝達山のハコネサンショウウオの移動と繁殖周期. 爬虫両棲類学雑誌, 14(2), 29-38.
箱根町. (2018). 箱根の文化財一覧 https://www.town.hakone.kanagawa.jp/index.cfm/8,675,34,html
早瀬長利, & 山根爽一. (1982). 茨城県筑波山系におけるハコネサンショウウオ Onychodactylus Japonicus (Houttuyn) の水中生活期の生態. 日本生態学会誌, 32(3), p395-403.
岩沢久彰. (1976). 桧枝岐におけるハコネサンショウウオの漁法と燻製. 爬虫両棲類学雑誌, 6(4), 105-109.
環境庁編. (1984). 日本の重要な両生類・は虫類の分布 全国版.
解良芳夫. (1978). ハコネサンショウウオ研究の経過と現状. 両生爬虫類研究会誌, 10, 13-25.
佐藤井岐雄. (1943). 日本産有尾類類総說. 日本出版社.
Takahara T., Genkai-Katoh, M., Miyashita H., & Kohmatsu Y. (2011). Preliminary study of food habits in the Japanese clawed salamander larvae (Onychodactylus japonicus) in a mountain brook of the Kiso River system.
田中清裕. (1982). 立山におけるハコネサンショウウオの天敵と食物連鎖. 両生爬虫類研究会誌, 22, 1-8.
吉川夏彦. (2008). ヤマカガシ幼体によるハコネサンショウウオ幼体の捕食例. 爬虫両棲類学会報, 2008(1), 8-10.
Yoshikawa, N., and M. Matsui. (2022). A New Salamander of the Genus Onychodactylus from Central Honshu, Japan (Amphibia, Caudata, Hynobiidae). Current Herpetology 41:82–100.