タイワンハブ

Protobothrops mucrosquamatus (Cantor, 1839)

爬虫網>有鱗目>ヘビ亜目>クサリヘビ科>マムシ亜科>ハブ属>タイワンハブ

沖縄県名護市にて撮影
概要

[別名(中国語)]

  • 龟壳花,老鼠蛇,恶乌子,笋壳斑,野猫种,蕲蛇盖

[大きさ] 

  • 最大全長 オス 1300mm、メス 1238mm

[説明]

  • アジアに広域分布する毒ヘビ。
  • 頭は大きく首元にくびれがあり、体色は主に褐色または赤褐色、背中に沿って不規則な暗赤褐色の斑紋が並ぶ
  • ネズミなど小型の恒温動物を好んで捕食する。木登りが得意。
  • 主に夜行性で人里の近郊でよく見られる。

[侵入情報]

  • 国立環境研究所の侵入生物データベースでは台湾由来とされている[19]。
  • 1990年代前半までに、薬用やハブ対マングースショーなどのために輸入されていた個体の一部が逃げ出し、沖縄島の一部に帰化した。分布は拡大傾向にあり、個体の移動だけでなく、サトウキビなどの農作物への混入も分布拡大の原因となっている[11]。
  • 本種による咬傷事故は2005年に名護市内で初めて発生し、2010年までに名護市と今帰仁村で計7件発生している[8]。
  • 鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類などを広く捕食するため、在来種が影響を受けていると予想される。特に、希少種が多いやんばるや本部半島に広がった場合、在来希少種への影響が強く懸念される。また在来種のハブと近縁であることから、交雑が生じる可能性がある[12]。遺伝的には裏付けられていないものの、交雑個体と考えられるヘビが複数採集されている[6]。
分布

[分布]

  • 中国東南部、西南部と台湾、ミャンマー北部、インド東北部、ベトナム北部、バングラデシュ、ラオスなどに生息している[17,18]。
  • 日本では沖縄島北部の名護市に移入。

[生息環境]

  • 日本では主に夜行性で、基本的にはハブと同様に山地から民家の庭まで多様な環境に生息している。
  • 中国では海抜82~2200メートルまでの山地、丘陵地などに広く分布し、竹林、渓流の周辺でよく見られる。人里付近の草地でもしばしば見られる[17]。
  • 台湾では、コウモリのいる洞窟で見つかったことがある[16]。
分類

[分類]

  • 爬虫網>有鱗目>ヘビ亜目>クサリヘビ科>マムシ亜科>ハブ属>タイワンハブ

[タイプ産地]

  • インドのアッサム地方[15]

[説明]

  • CantorによってTrigonocephalus mucrosquamatusとして1839年に記載された [1]。その後本種はアジアハブ属Trimeresurus に移された。形態学的な特徴に基づき、Hoge&Romano-Hoge(1983)はアジアハブ属の細分化を主張し、本種を含むグループに対してハブ属Protobothropsという新属を立てた[5]。1990年代後半に一連の分子系統学的研究が始まり、ハブ属とアジアハブ属は遺伝的にも明瞭に分かれることが示された[7,14,15]。
  • 現在ハブ属は15種存在し、その中には特定の地域の固有種や、タイワンハブのような広域分布種が存在する。また、属内の大半の種は中国固有種または中国に分布する種である。Guo(2016)の分子系統学的研究により、ハブ属の起源は中国西南部と推測されている[3]。
  • タイワンハブの種内変異について、遺伝的に5つのミトコンドリア系統が存在することが明らかになっているが、それぞれの系統は別種とされるほどは分化していないことが示唆されている [2]。
体の特徴

[形態][17, 18]

  • 目の下に一対のピットをもつ。
  • 体型は細長く、頭部は上から見ると横幅がある三角形に見える。
  • 体色は黄褐色或いは茶褐色、頭部から尾まで不規則な暗赤褐色の斑紋が互い違いに並ぶ。
  • 体鱗列数は25-29列、腹板194-233枚、尾下板70-108枚、肛板は単一。

[見分け方][13, 17]

  • 在来種であるホンハブと比べると、タイワンハブは相対的に小型である。
  • 斑紋について、タイワンハブは背中に沿って不規則な円形斑紋が左右2つずつ分布している(1つのこともある)。一方で、ホンハブの斑紋はタイワンハブより細かい模様が不規則に分布している。タイワンハブの地色は褐色なのに対して、ホンハブの体色は鮮やかな黄色から褐色まで様々である。
  • タイワンハブの体鱗列数は25-29列であり、ハブの33-39列よりも少ない。
生態

[食性] [17]

  • 爬虫類、両生類、鳥、小型哺乳類。日本に移入された個体群では、ワタセジネズミとシロアゴガエルの捕食例が知られている[4,13]。
  • 台湾での研究によると、主にネズミとモグラを捕食しており、他にはカエル、ヘビ、鳥も捕食する。

[繁殖][13]

  • 沖縄では6月が繁殖期で、3~15個の卵を産卵し、1~1ヶ月半ほどで孵化する。

執筆者:叶林芸

引用・参考文献

  1. Cantor, T. E. 1839. Spicilegium serpentium indicorum [part 1]. Proc. Zool. Soc. London 1839: p31-34.
  2. Guo, P., Liu, Q., Zhu, F., Zhong, G. H., Che, J., Wang, P., et al, A. 2019. Multilocus phylogeography of the brown-spotted pitviper Protobothrops mucrosquamatus (Reptilia: Serpentes: Viperidae) sheds a new light on the diversification pattern in Asia. Molecular phylogenetics and Evolution, 133, p82-91.
  3. Guo, P., Liu, Q., Wen, T., Xiao, R., Fang, M., Zhong, G., et al. 2016. Multilocus phylogeny of the Asian Lance-headed pitvipers (Squamata, Viperidae, Protobothrops) Zootaxa 4093 (3): p382-390.
  4. 浜中京介.森哲.森口一.2014(2). 日本産ヘビ類の食性に関する文献調査.爬虫両棲類学会報 特集:日本の両生類・爬虫類の食性 p167-181.
  5. Hoge, A. R., & S. A. Romano-Hoge. 1983 [for 1980 / 81]. Notes on micro and ultrastructure of “Oberhautschen” in Viperoidea . Mem. Inst. Butantan 44 / 45: p81-118.
  6. 勝連盛輝. 西村昌彦. 香村昴男. 1996. 沖縄諸島において本来の分布地とは異なる地域で採集されたヘビ. 沖縄生物学会誌34: p1-7.
  7. Kraus, F., Mink, D. G., & Brown, W. M. 1996. Crotaline intergeneric relationships based on mitochondrial DNA sequence data. Copeia (4): p763-773.
  8. 松田聖子. 真保栄陽子. 2011. 沖縄県における平成22年の毒蛇咬症. 平成22年抗毒素研究報告書. p23-37.
  9. 野崎真敏. 盛根信也. 寺田考紀. 2003. 沖縄に生息するハブ属毒の交叉中和実験―沖縄ハブ・サキシマハブ・タイワンハブ・交雑種について. 平成14年抗毒素研究報告書. p27-32.
  10. 堺淳. 森口一. 鳥羽通久. 2002(2).フィールドワーカーのため毒蛇咬症ガイド.爬虫両生類学会報 日本蛇族学術研究所. p75-92.
  11. 寺田考紀. 2011(2). 爬虫両棲類学会報. 特集:爬虫両生類における外来生物問題とその対策. 沖縄島に定着したタイワンハブ・サキシマハブ・タイワンスジオの生息状況と対策. p106-168
  12. 戸田光彦. 吉田剛司. 2005(2). 爬虫類・両生類における外来種問題. 爬虫両生類学会報 特集:外来種問題.
  13. 富田京一. 松橋利光. 2007. 山溪ハンディ図鑑10. 日本のカメ・トカゲ・ヘビ. p232.
  14. 鳥羽通久. 太田英利. 2006(2). 特集:日本産爬虫類の学名の現状. 爬虫両棲類学会報. アジアのマムシ亜科の分類:特に邦産種の学名の変更を中心に. p145-151.
  15. Tu, M, C., et al. 2000. Phylogeny, taxonomy, and biogeography of the oriental pitvipers of the Genus trimeresurus (Reptilia: Viperidae: Crotalinae): A Molecular perspective. Zoological Science 17: p1147-1157.
  16. 向高世. 楊懿如. 李鵬翔. 2009年. 台灣兩棲爬行類圖鑑(全新美耐版). p324-p325.
  17. 趙爾宓. 2006. 中国蛇類(上). p137-138.
  18. Zhong Guanghui. 2016. Study on sexual dimorphism and geographic variation of Protobothrops mucrosquamatus. Chengdu university of technology.
  19. 国立環境研究所. 侵入生物データベース< https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/30130.html >. 参照 2020.8.29

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です