コモチカナヘビ

Zootoca vivipara (Lichtenstein, 1823)

爬虫綱 > 有鱗目 > カナヘビ科 > コモチカナヘビ属 > コモチカナヘビ

  • 木道で日光浴をする個体(北海道北部・8月)
概要

[大きさ][1]

  • 全長 14 – 18 cm
  • 頭胴長 5.5 – 7.5 cm

[説明][1]

  • 国内では北海道北部の湿原を中心に生息。
  • ユーラシア大陸に広く分布し、陸上の爬虫類では最も自然分布域の広い種である。
  • 胎生であり、卵ではなく子を産むことから「子持ち」カナヘビという和名になった。

[保全状況]

  • 浜頓別町指定天然記念物
  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
  • 北海道レッドリスト2015:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
  • IUCNレッドリスト2019:Least Concern (LC)
分布

[分布]

  • 国内ではサロベツ原野や猿払原野など、北海道北部の湿原を中心に生息(幌延町、豊富町、稚内市、猿払村、浜頓別町)[1]
  • 世界的に見ると、ユーラシア大陸北部を中心に広く生息する(アルバニア、オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、中国(黒竜江省、内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区)、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本(北海道北部)、カザフスタン、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、モルドバ、モンゴル、モンテネグロ、オランダ、北マケドニア、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、ロシア、セルビア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、ウクライナ、イギリス)[2]

[生息環境][1,2]

  • 国内では高層湿原を中心に生息
  • 湿原内の低木が生える草地を好む
  • 水際や木の根元などに巣穴を持つ
  • 国外での生息環境は多岐に渡り、草地や森林、海岸の崖や砂丘などでもみられる
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > カナヘビ科 > コモチカナヘビ属 > コモチカナヘビ

[タイプ産地] 

  • Mt. Schneeberg, west of Vienna(オーストリア)[3]

[説明][3]

  • コモチカナヘビに関する最初の科学的な記述は、J.F. von Jacquinによる1787年のラテン語の文献である。この文献で、Jacquinはオーストリアで観察したコモチカナヘビが子供を産んだという行動に関して報告を行い、”Lacerta vivipara, observatio Jos. Francisci de Jacquin”というタイトルの記述を残した。ラテン語でlacertaはトカゲ、viviparaは胎生という意味を持つ。本文を読めば分かることだが、”Lacerta vivipara”という言葉は、”Lacerta vivipara“(属名Lacerta、種小名viviparaの、リンネ式2名法による学名)ではなく、”viviparaなLacerta”(胎生のトカゲ)という意図で使われており、Jacquinはこの時リンネ式の記載を行ったという意図はなかった。しかしタイトルが学名の表記と同じラテン語で書かれていたために、生物学者はこの記述をコモチカナヘビの学名を指す”Lacerta vivipara“と誤って解釈し、Lacerta viviparaが正式な学名として後の文献でも用いられるようになった。
  • 上記の背景により、Jacquin(1787)は後世でも原記載論文だと誤認されていたが、Schmidtler and Böhme (2011)で分類の歴史的な変遷が整理され、”Lacerta vivipara“を学名として明確に使用した最初の文献であるLichtenstein (1823)が、原記載として妥当であるという結論に至った。
体の特徴

[形態][1]

  • 背面は褐色で、暗褐色の斑紋がある。
  • 腹面はメスが淡黄色。オスはオレンジ色で黒い模様が入る。
  • 鱗は細かく、粒状
  • オスの頭部はメスより大きい。

[似た種との違い][1]

コモチカナヘビの背面には、暗褐色の斑紋が並ぶ。ニホンカナヘビと比べるとずんぐりした体型をしている。頭部はニホンカナヘビより相対的に小さい。

生態

[食性][1]

  • 昆虫やクモなどの節足動物

[繁殖][1]

  • 繁殖は年1回で7月ごろ
  • 卵生ではなく胎生であり、羊膜に包まれた5個体前後の子供を産む

[交尾行動][6]

  • 多くのトカゲ類で、オスの頭部はメスより大きい。大きな頭のオスほど繁殖に成功しやすく、そのために雌雄での頭のサイズ差が生じたと考えられている。コモチカナヘビの場合、飼育下での行動実験で頭部サイズが繁殖成功に与える影響が確かめられている。
  • 繁殖期のオス同士が出会うと激しく噛み合う闘争行動を行うが、頭が大きいほど闘争に勝利しやすくなることが実験で確かめられている。
  • また、交尾時にオスはメスを噛んで保持するが、頭が大きいほど保持しやすくなり、交尾の成功率上昇につながるという実験結果もある。
  • 上記の背景により、コモチカナヘビでは頭が大きいオスほど繁殖に成功しやすくなり、頭部が大きくなる性選択が働いたと考えられている。

[卵生か、胎生か][5]

  • コモチカナヘビは地域により、卵生か胎生かが異なる。卵生の祖先種から進化し、胎生を獲得したとされている。卵生の個体群はイタリアやフランス、スペインなど温暖な地域にのみ生息する。
  • 卵生の個体群は遺伝的に見ると、イタリアやオーストリア、スロベニアに生息するグループとフランス南部やスペイン北部に生息するグループに分かれており、これらは単系統にはならない。フランス南部やスペイン北部に生息するグループでは卵生→胎生→卵生という、胎生から卵生に戻る進化が起きたと考えられている。

[生態][1]

  • 昼行性で、日光浴をよく行う。日光浴はメス体内での胚発生にも重要だと考えられている。
  • 日照のない時や高温時には、巣穴に隠れるなどして活動を抑制すると考えられている。

[耐寒性][4]

  • 現生の爬虫類の中で最も北方に分布し、耐寒性が非常に強い。
  • 氷点下になると体が過冷却状態になり、凍結に耐える。
  • 冷凍されてもその後解凍されれば復活することがある。シベリアの個体群では67日間の冷凍状態から生還した例もあるほか、個体によっては−10°にも耐えたという実験結果がある。
  • 耐寒性には地域差があり、一般的なヨーロッパの個体群よりもシベリアの寒冷地の個体群の方がより低い温度に耐えることができる。
その他

[コメント]

最も北に分布する爬虫類かつ、最も自然分布域の広い爬虫類であるコモチカナヘビ。その適応範囲の広さから、「最も成功した爬虫類」と呼ばれることも。日本ではみられる場所が少ないですが、一度は観に行く価値がある、良いトカゲだと思います。体型も丸っこくてとても可愛いです。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 太田英利. 2014. 環境省(編)レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  2. Aghasyan, A. et al. 2019. Zootoca vivipara. The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T61741A49741947. http://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2019-2.RLTS.T61741A49741947.en
  3. Schmidtler, J. F., & Böhme, W. (2011). Synonymy and nomenclatural history of the Common or Viviparous Lizard, by this time: Zootoca vivipara (Lichtenstein, 1823). Bonn Zool. Bul60(2), 145-159.
  4. Berman, D. I., Bulakhova, N. A., Alfimov, A. V., & Meshcheryakova, E. N. (2016). How the most northern lizard, Zootoca vivipara, overwinters in Siberia. Polar Biology39(12), 2411-2425.
  5. Surget-Groba, Y. A. N. N., Heulin, B., Guillaume, C. P., Puky, M., Semenov, D., Orlova, V., … & Smajda, B. (2006). Multiple origins of viviparity, or reversal from viviparity to oviparity? The European common lizard (Zootoca vivipara, Lacertidae) and the evolution of parity. Biological Journal of the Linnean Society87(1), 1-11.
  6. Gvozdík, L., & Van Damme, R. (2003). Evolutionary maintenance of sexual dimorphism in head size in the lizard Zootoca vivipara: a test of two hypotheses. Journal of Zoology259(1), 7-13.

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