ツチガエル

Glandirana rugosa (Temminck et Schlegel, 1838)

両生綱 > 無尾目 > アカガエル科 > ツチガエル属

  • 鳴く雄(京都府8月)/ Adult male calling
概要

[大きさ] 

  • 体長 3–6 cm [1]

[説明]

  • 背面にはイボがいくつも並ぶのが特徴的。
  • 都市部から低山地までの池、水田、河川の近くに生息する。アリなど小型の節足動物を捕食し、危険を感じると臭い分泌物を出す。
  • オタマジャクシの一部は年内に変態せず、ひと冬を越してから翌年に変態・上陸する。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020未掲載
分布

[分布]

  • 本州(東北地方太平洋側から関東地方・中部地方東部にかけてを除く)、四国、九州。北海道の一部とハワイに人為移入されている。

[生息環境]

  • 水田、湿地、河川などの水場近くに棲む。
分類

[タイプ産地] 

  • 日本(おそらく長崎県)

[説明]

  • 学名|種小名の rugosa は「皺の多い」の意
  • 近縁種との分類学的関係|中国・韓国に近縁種がおり、かつては同種とされていたが、遺伝的に遠縁であることから近年それらは独立種 G. emeljanovi として扱われる[2]。また、2012年には佐渡島の一部集団がサドガエル G. susurra として[3]、2022年には東北太平洋側から関東平野にかけての集団がムカシツチガエル G. reliquia として独立した[1]。
    本種とサドガエルは佐渡島内で側所的に分布するが、交雑個体はほぼ不妊の雄となることから、生殖隔離されている[4]。本種とムカシツチガエルとは、分布境界付近でも交雑個体が確認されないことから、一定の生殖隔離が存在すると考えられている[1]。
    Nakamura et al. 2022[5]は九州東南部の集団を独立種 G. nakamurai として記載したが、Shimada et al. 2022[1]は核ゲノムに差異が見られないことからこれをシノニムとした。
  • 属名|かつてはRana属やRugosa属とされていたが、分子系統学的な研究が進み、現在ではGlandirana属に位置づけられている。[6]
体の特徴

[形態][7]

  • 背面にイボが並ぶのが目立つ。腹側には顆粒がある。
  • 背面の体色は褐色で、暗褐色の斑紋を持つ。背中線をもつ個体もいる。腹面はくすんだ白色。

[似た種との違い]

  • ヌマガエル|西日本ではヌマガエルが同所的に分布し、両種がすぐ近くで鳴いていることもある。どちらも背中にいぼが並ぶため、間違えやすい。捕獲して腹面を見れば、以下の表にあげた点で見分けられる。また頭部の形が異なること、ヌマガエルではより明瞭に上あごの斑紋が現れることも識別材料となる。
ヌマガエル線腹側
ツチガエルない顆粒がある
ヌマガエルある顆粒はなく滑らか
ツチガエル
ヌマガエル
  • ムカシツチガエル|成体ではムカシツチガエルと区別することは困難。幼生では識別点があり、本種の幼生は腹面に広く腺が分布する一方で、ムカシツチガエルの幼生は喉元から腹の中央にかけて腺を欠く個体が多い[1]。しかし腺自体かなり見えづらいため、野外で識別することは難しいだろう。幸い、これまで本種とムカシツチガエルが同所的に分布する例は知られていないため、分布域からおおよそ判別できる。
ツチガエル幼生の腹面に見られる腺(矢印)
  • サドガエル|佐渡島にはツチガエルとサドガエルの両方が分布する(しかし分布域は重ならない)。サドガエルとは以下の点で見分けられる。
背中のいぼ下腹部の色腹側
ツチガエル発達する乳白色〜灰色顆粒がある
サドガエル発達が弱い黄色顆粒はなく滑らか
ツチガエル
サドガエル
生態

[食性]

  • 昆虫、クモ、ムカデ、貝類などを捕食する。とくにアリをよく食べる。移入先のハワイではヨコエビやハサミムシが主要な餌となっているという。[8–10]

[繁殖]

  • 繁殖期は5–9月で、一繁殖場所でも数か月にわたる。この長い繁殖期の間に、交尾相手を変えて複数回産卵する雌もいる。[11, 12]
  • 繁殖場所は水田、池、河川などにある止水や流れが弱い場所。[12]

[成長]

  • 京都における調査によれば、オスは変態後1–2年、メスは1–3年で成熟し、繁殖に参加できるようになる。[13]

[防御行動]

  • 攻撃されると皮膚から臭い粘液を出し、これによって身を守ると考えられている。実験的にシマヘビに捕食させても、飲み込まない事が多い。[14]

[卵]

  • 卵は10–60個ほどの小卵塊として小分けにして産み付けられる。[12]

[幼生]

  • 体色は黄土色で、黒や白の小斑点が散在する。腹面はくすんだ白色で、喉元は灰色の汚れ模様がある。
  • 一部は年内に変態するが、残りは幼生のまま越冬し、翌年の5–8月に変態・上陸する。[12]
その他

[性染色体に関する研究]

  • ツチガエルには性染色体の構造および性決定様式が異なる複数の地域集団が知られ、性染色体進化研究の好材料になっている。[15, 16]

執筆者:木村楓

  • 2019年3月:執筆
  • 2022年9月28日:ムカシツチガエルの記載に伴い、分類の項目を見直したほか、ムカシツチガエルの分布域にあたる集団の文献を除くなどの改変を行った。

引用・参考文献

  1. EShimada T, Matsui M, Ogata M, et al (2022) Genetic and morphological variation analyses of Glandirana rugosa with description of a new species (Anura, Ranidae). Zootaxa 5174:25–45
  2. Eo SH, Lee B-J, Park C-D, et al (2019) Taxonomic identity of the Glandirana emeljanovi (Anura, Ranidae) in Korea revealed by the complete mitochondrial genome sequence analysis. Mitochondrial DNA Part B 4:961–962
  3. Sekiya K, Miura I, Ogata M (2012) A new frog species of the genus Rugosa from Sado Island, Japan (Anura, Ranidae). Zootaxa 3575:49–62
  4. Ohtani H, Sekiya K, Ogata M, Miura I (2012) The postzygotic isolation of a unique morphotype of frog Rana rugosa ( Ranidae ) found on Sado Island , Japan. Journal of Herpetology 46:325–330
  5. Nakamura M, Nakamura Y, Oike A, et al (2022) A new frog species of the genus Glandirana from southeastern Kyushu, Japan (Anura Ranidae). EC Veterinary Science 7.1:11–23
  6. 松井正文 (2013) 2007年以降に記載ないし,分類変更された日本産両生類について. 爬虫両棲類学会報 2013:141–155
  7. 日本爬虫両生類学会 (2021) 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版, 滋賀県
  8. Hirai T, Matsui M (2000) Myrmecophagy in a ranid frog rana rugosa. Specialization or weak avoidance to ant eating? Zoolog Sci 17:459–466
  9. 日隈徳子, 大庭伸也, 古賀雅夫 (2015) 長崎市の人工池周辺におけるツチガエル(Rana rugosa)とニホンヒキガエル(Bufo japonicus japonicus)の食性. 環動昆 = Japanese journal of environmental entomology and zoology : 日本環境動物昆虫学会誌 26:17–28
  10. Van Kleeck MJ, Holland BS (2018) Gut check: predatory ecology of the invasive wrinkled frog (Glandirana rugosa) in Hawai’i. Pac Sci 72:199–208
  11. 張瓊文 (1994) ツチガエル雌の複数回産卵. 爬虫両棲類学雑誌 15:112–115
  12. 松井正文 (2018) 日本産カエル大鑑. 文一総合出版
  13. Khonsue W, Matsui M, Hirai T, Misawa Y (2004) Age determination of Wrinkled Frog, Rana rugosa with special reference to high variation in postmetamorphic body size (Amphibia: Ranidae). Zoolog Sci 18:605–612
  14. Mori A (1989) Behavioral responses to an unpalatable prey, Rana rugosa (Anura: Amphibia), by new born Japanese striped snakes, Elaphe quadrivirgata. In: Matsui M, Hikida T, Goris R (eds) Current Herpetology in Easr Asia. Herpetological Society of Japan, Kyoto, pp 459–471
  15. Miura I (2008) An evolutionary witness: The frog rana rugosa underwent change of heterogametic sex from XY male to ZW female. Sex Dev 1:323–331
  16. Miura I, Shams F, Jeffries DL, et al (2022) Identification of ancestral sex chromosomes in the frog Glandirana rugosa bearing XX-XY and ZZ-ZW sex-determining systems. Mol Ecol 31:3859–3870