ニシヤモリ

Gekko sp.

爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 >ニシヤモリ

  • 甑島・成体
概要

[大きさ] [1]

  • 頭胴長は5–7 cm前後
  • 尾長は頭胴長とほぼ同じ

[説明]

  • 九州西部の沿岸地域と周辺の島々に生息
  • 海岸部の露岩など自然環境に多い
  • 昆虫やフナムシなどを捕食する

[保全状況]

  • なし
分布

[分布][1]

  • 九州西部の沿岸地域(長崎県西部、鹿児島県南西部及び北西部)
  • 九州西部の島々(平戸島、男女群島、福江島、久賀島、中通島、江島、甑島列島、長島、宇治群島、草垣諸島など)

[生息環境]

  • 自然林に隣接した海岸部の露岩地[1]
  • それらに近接した神社や家屋等[1]
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > ヤモリ科 > ヤモリ属 > ニシヤモリ

[近縁種との分類学的関係]

  • ニシヤモリが初めて報告されたのは1988年である[2]。
  • 五島列島のヤモリはそれまでニホンヤモリとして報告されていたが、中通島で発見された個体がこれまでの九州産既知種の特徴と一致しなかったことが示された[2]。
  • このヤモリには柴田保彦氏(大阪市自然史博物館)によってニシヤモリという仮称がつけられ[3]、それが現在(2022年)までさまざまな文献で用いられている。
  • 柴田(1990)[4]は当時知られていたヤモリ属Gekko全種と、ニシヤモリの特徴の比較を行い、そのどれともニシヤモリが一致しないことを確かめている。
  • 一方で形態形質の比較や、遺伝解析といった、他種との系統的な位置関係はこれまで論文として報告されておらず、記載論文もまだ出されていない(2022年現在)。
体の特徴

[形態][1]

  • 背面は灰色から灰褐色
  • 背面には縦に暗帯が並び、不規則な暗色の斑紋も存在する
  • 尾の基部背面にW字型の暗帯はない
  • 腹面は通常黄色
  • 体の背面は細かい顆粒状の鱗で覆われ、そこに大型の鱗が混在する
  • この大型鱗の密度は多種よりも高い
  • 大型鱗は四肢にも存在する
  • オスは8個ほどの前肛孔を持つ
  • 側肛疣は左右1対
  • 指下薄板は中央で2分しない

[似た種との違い]

ニシヤモリの生息する九州西部には、ニホンヤモリミナミヤモリヤクヤモリが生息する場合がある。

ニシヤモリの大きな特徴は、大型鱗の多さである。側頭部と胴部の大型鱗が顕著に多いことに加え、前肢を含む四肢にも大型鱗が存在するという点で、他の種との判別が可能。

ニシヤモリの大型鱗。国内の他種と異なり前肢にも存在する。

そのほかには、以下のような違いがある。

ニホンヤモリとの識別点[1,7]
  • ニホンヤモリは側肛疣を2–4対持つ。ニシヤモリの側肛疣は1対のみ。
  • ニホンヤモリの尾基部背面にはW字型の暗帯がある。ニシヤモリにこの模様の暗帯はない。
  • ニホンヤモリの腹面は汚白色から灰白色。ニシヤモリの腹面は黄色であることが多い。
ミナミヤモリ(水俣市、中通島、平島に移入)との識別点[1]
  • ミナミヤモリは四肢に大型鱗を持たないが、ニシヤモリは大型鱗を持つ。
ヤクヤモリ(九州南部)との識別点[1]
  • ヤクヤモリの鼻間板は、より後方にある鱗より大きい。ニシヤモリの鼻間板は小さい。
  • ヤクヤモリの前肢の背面には大型鱗がないが、ニシヤモリは前肢に大型鱗を多数もつ。
生態

[食性][1]

  • 昆虫やフナムシなど
  • 小型の巻貝の捕食例もある

[繁殖]

  • 5月–6月ごろに産卵する[1,5]とされているが、7月上旬に2卵を産んだ記録もある[2]。
  • 産卵場所は比較的乾燥した直射日光の当たる岩の割れ目[3]。
  • 岩の割れ目に多数の卵がまとめて産みつけられる[3]。

[冬眠]

  • 岩場の隙間の深い場所で冬眠する[5]

[生息環境]

  • 春先は日当たりの良い岩場を好む一方、真夏には涼しい木陰の岩場を好む[5]。
その他

[コメント]

大型の体と鮮やかな黄色い腹面は、国内産ヤモリ属の中でも随一の華やかな印象を受けます。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 日本爬虫両生類学会 編. 2021. 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版, 232pp
  2. 松尾公則・江島正郎・松永邦輔. 1988. 五島列島中通島のヤモリ属の1種. 日本の生物 2(2): 61
  3. 松尾公則・江島正郎. 1988. 長崎県におけるヤモリ属の1種の新産地. 日本の生物 2(12): 56–58
  4. 柴田保彦. 1990. 甑島列島のヤモリ属の 1 種. 自然史研究, 2(6), 77-82.
  5. 松尾公則. 2005. 長崎県の両生・爬虫類. 長崎新聞社, 155pp