Hynobius tagoi Dunn, 1923
両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属
概要
[英名] [6]
[大きさ]
- 全長 オス:11.0 – 13.4 cm、メス:10.1 – 12.3 cm [6]
- 頭胴長 オス:6.0 – 7.1 cm、メス:5.6 – 7.0 cm [6]
[説明]
- 対馬固有種
- 九州各地に分布するカスミサンショウウオの対馬個体群として扱われてきたが[3]、九州産とは遺伝的・形態的・生態的に異なるため、独立種となった。
- 山地に生息し、産卵は流水環境で行われる。
- 場所によってツシマサンショウウオと同所的に生息する。
[保全状況]
- 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧Ⅱ類(カスミサンショウウオとして)
- 長崎県レッドリスト2022:絶滅危惧Ⅱ類(カスミサンショウウオとして)
- 特定第二種国内希少野生動植物種(カスミサンショウウオとして)
分布
[分布] [6]
[生息環境][6]
- 標高25~125 m(中央値65 m)に生息する。産卵場所および幼生の生活場所は山地の渓流。
分類
[分類]
- 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > タゴサンショウウオ
[タイプ産地]
[説明]
- 対馬上島産のオス1個体の標本(CAS 26563)に基づき、Dunnによって1923年に新種記載された[1][2]。
- 小山(1930)は対馬に産する有尾類はツシマサンショウウオ1種のみと考え、Hynobius tagoi(タゴサンショウウオ)をシノニマイズした[7]。その後、90年近くにわたって、対馬に生息する有尾類はツシマサンショウウオ1種だけと考えられてきた。
- 2019年、Matsui et al. (2019)により、対馬にカスミサンショウウオ(Hynobius nebulosus)が分布することが明らかになった[3]。しかしながら、対馬のカスミサンショウウオは流水環境で繁殖するなど、九州のカスミサンショウウオ集団とは生態的に異なる特徴をもつ。そのため、Niwa et al. (2021)では、対馬のカスミサンショウウオを暫定的にサンショウウオの1種(Hynobius sp.)として扱った。また、対馬のカスミサンショウウオとツシマサンショウウオの間に交雑はなく、両者は別種の関係であることも示唆されている[4]。
- 2023年、Dunnの記載からちょうど100年が経過した。この年、対馬産のカスミサンショウウオは遺伝的・形態的・生態的に九州産とは異なる別種であることが分かり、Hynobius tagoi Dunn, 1923(タゴサンショウウオ)が復活することになった[6]。
- 種小名(tagoi)は田子勝弥に献名されている[6]。
体の特徴
[形態][6]
- 背面は褐色から灰褐色で、点刻状の暗色斑紋をもつ。腹面は背面に比べ明るい色彩をしている。尾の側面は褐色から灰褐色で点刻状の暗色斑紋がはいる(背面と同じ色彩)。オスの場合、尾の上縁(もしくは下縁)に明瞭な黄色線をもたないことが多い。メスの場合、尾の上縁に細く明瞭な黄色線をもつことが多い。繁殖期のオスの喉は白い。
- 体は大きく、第5趾は長い。比較的尾は長く、オスで頭胴長の78–95%(中央値86%)程度の長さ、メスで同66–89%(中央値76%)程度の長さ。尾高は低く、尾幅は狭い。
- 体側に沿って前後肢を伸ばしても指趾は重ならない。肋条数は12 – 14本(13本が多い)。
[似た種との違い][6]
- 本種の成体は尾の側面が褐色から灰褐色で点刻状の暗色斑紋がはいる。この特徴により、同じ島に生息するツシマサンショウウオ(尾の側面は一様な黒褐色または紫褐色)とは識別可能である。
- 卵嚢の形状や一腹卵数はツシマサンショウウオに似るが、本種の卵は未受精卵が殆どみられない(未受精卵率:0 – 33%、中央値2%)。
生態
[繁殖]
- 繁殖期は2月上旬~3月上旬で、ツシマサンショウウオ(3月下旬~4月中旬)よりも早い[6]。
- 近縁種のカスミサンショウウオ(止水産卵性)とは異なり、山地渓流といった流水環境に産卵する[4][6]。卵嚢は水中の石や岩に産み付けられる[6]。
- ツシマサンショウウオと同所的(同じ沢)に産卵することもあるが[4]、本種の方が緩やかな渓流に産卵する傾向にある[5]。
[卵][6]
- 本種の卵嚢は透明で三日月状。ツシマサンショウウオと同様に、卵嚢の遊離端に長さ2.5 – 60 mmの明瞭な鞭状構造をもつ(近縁種のカスミサンショウウオは長く明瞭な鞭状構造は持たない)。卵嚢外皮にはいくつか皺があるが、目立った縦条は存在しない。
- 卵嚢の大きさは長さ:113 – 177 mm(MAESL)、47 – 79 mm(MIESL)、幅:11 – 17 mm(ESW)で、カスミサンショウウオ(狭義)に比べ有意に小さい。
- 本種の一腹卵数は21 – 62(平均45.5)で、カスミサンショウウオ(狭義)に比べるとかなり少ない。同じ島に生息するツシマサンショウウオと違い、卵嚢内のほとんどの卵は受精している(未授精卵率の中央値:2%)。
[幼生][6]
- 3月下旬から4月中旬にかけて卵嚢から孵化する。幼生は渓流中で生活し、孵化した年の6月~8月に変態する。越冬幼生は見つかっていない。
- 場所によっては、ツシマサンショウウオの幼生と混生している。
執筆者:丹羽奎太
2024年5月 執筆・公開
引用・参考文献
- Dunn, E. R. (1923). New species of Hynobius from Japan. Proceedings of the California Academy of Sciences, 4th Series, 12, 27–29.
- Dunn, E. R. (1923). The salamanders of the family Hynobiidae. Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences, 58, 445–523.
- Matsui, M., Okawa, H., Nishikawa, K., Aoki, G., Eto, K., Yoshikawa, N., Tanabe, S., Misawa, Y., & Tominaga, A. (2019). Systematics of the widely distributed Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and its closest relatives. Current Herpetology, 38, 32–90.
- Niwa, K., Kuro-o, M., & Nishikawa, K. (2021). Discovery of two lineages of Hynobius tsuensis (Amphibia, Caudata) endemic to Tsushima Island, Japan. Zoological Science, 38, 259–266.
- Niwa, K., Tran, D. V., & Nishikawa, K. (2022). Differentiated historical demography and ecological niche forming present distribution and genetic structure in coexisting two salamanders (Amphibia, Urodela, Hynobiidae) in a small island, Japan. PeerJ, 10, e13202.
- Niwa, K., Nishikawa, K., Matsui, M., Kanamori, S., & Kuro-o, M. (2023). Taxonomic reassessment of salamanders (genus Hynobius) from Tsushima Islands, Japan, with a resurrection of Hynobius tagoi Dunn, 1923 (Amphibia: Caudata). Zootaxa, 5339(3), 201–236.
- 小山準二. (1930). Hynobius tagoiとHynobius tsuensis. 日本生物地理学会会報, 2(1), 21–35.
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