ツシマサンショウウオ

Hynobius tsuensis Abe, 1922

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属

  • オスの成体(長崎県対馬)
概要

[地方名]

  • やまはぜ(幼生に対する呼称)[7]

[英名]

  • Tsushima salamander [11]

[大きさ] 

  • 全長 オス:9.8 ­– 12.9 cm、メス:9.7 – 12.2 cm [11]
  • 頭胴長 オス:5.6 – 7.1 cm、メス:5.9 – 7.0 cm [11]

[説明]

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧
  • 長崎県レッドリスト2022:絶滅危惧Ⅱ類
  • 長崎県未来につながる環境を守り育てる条例に基づく希少野生動植物種
分布

[分布] [11]

  • 長崎県対馬(上島南部を除く)

[生息環境][11]

  • 標高25~270 m(中央値110 m)に生息する。産卵場所および幼生の生活場所は山地の渓流。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > ツシマサンショウウオ

[タイプ産地] 

  • 対馬[1](その後、佐藤井岐雄は厳原をタイプ産地として記している[13])

[説明]

  • 対馬産の3個体(オス2、メス1)の標本に基づき、阿部余四男によって1922年に新種記載された[1]。
  • 原記載にはホロタイプに関する言及はないが、佐藤井岐雄は標本番号1016aの標本(オス、成体)をタイプとしている[13]。
  • 1923年、Dunnは対馬下島産の標本に基づき、Hynobius bicolor Dunn, 1923を新種として記載した[2]。しかし、後に出版された別の論文[3]ではH. tsuensisのシノニムとして扱っている[3][14]。Hynobius bicolorH. tsuensisのシノニムであることはNiwa et al. (2023)でも確認されている[11]。
  • 1923年、Dunnは対馬上島産の標本に基づいて、Hynobius tagoi Dunn, 1923を新種記載したが[2]、後に小山準二の研究によって(H. tsuensisのシノニムとして)シノニマイズされた[12]。2023年、H. tagoiはカスミサンショウウオの対馬個体群に相当することが分かり、H. tagoiは復活し再記載された[11]。(タゴサンショウウオのページを参照)
  • 種小名のtsuensisは本種の生息地である「対馬(Tsu-shima)」を意味していると考えられている[11]。
体の特徴

[形態][11]

  • 色彩は変異に富む。背面は紫褐色の地色に黄色の模様がはいる、もしくは黄褐色の地色に紫褐色の模様がはいる個体が多いが、模様がほとんどなく一様に黒っぽい紫褐色の個体や暗褐色に黒い斑紋がはいる個体も存在する。ただし、どの個体も尾の側面(特に後半分)が一様に黒褐色(もしくは紫褐色)である。
  • 体は大きく、第5趾は長い。尾は比較的長く、オスで頭胴長の75­–92%(中央値82%)程度の長さ、メスで同56–83%(中央値77%)程度の長さ。尾高は低く、尾幅は狭い。
  • 体側に沿って前後肢を伸ばしても指趾は重ならない。肋条数は12か13本、まれに14本。

[似た種との違い]

  • 本種の成体は尾の側面(特に後半分)が一様に黒褐色もしくは紫褐色であり、同じ島に生息するタゴサンショウウオ(尾の側面は褐色から灰褐色[点刻状の暗色斑紋あり])とは識別可能。
  • 卵嚢の形状や一腹卵数はタゴサンショウウオに似るが、本種の卵は未受精卵率が高い(38 – 81%、中央値64%)。
生態

[繁殖]

  • 繁殖期は3月下旬~4月中旬で、タゴサンショウウオ(2月上旬~3月上旬)よりも遅い[11]。
  • タゴサンショウウオと同所的(同じ沢)に産卵することもあるが[8]、本種の方が水流の速い渓流に産卵する傾向にある[9]。
  • 渓流中の石や岩の下に産卵するが、地中の伏流水中から卵嚢が発見されたこともある[4]。

[卵]

  • 本種の卵嚢は透明で三日月状。タゴサンショウウオと同様に、卵嚢の遊離端に長さ10 – 32 mmの鞭状構造をもつ。卵嚢外皮に皺や目立った縦条は存在しない[11]。
  • 卵嚢の大きさは長さ:98 – 137 mm(MAESL)、36 – 60 mm(MIESL)、幅:11 – 15 mm(ESW)で、タゴサンショウウオよりも小さい[11]。
  • 一腹卵数は34 – 74(平均52.8)で、卵嚢内の卵の多くは未授精である(未受精卵率:38 – 81%、中央値64%)[11]。
  • 卵嚢内で、孵化前の幼生が未受精卵を食べる様子が報告されている[10]。

[幼生][11]

  • 5月に卵嚢から孵化し、幼生は渓流中で生活する。孵化した年の秋に変態するが、一部の幼生は越冬し翌年の4月~6月に変態する。
  • 場所によっては、タゴサンショウウオの幼生と混生している。
その他

執筆者:丹羽奎太
2024年5月執筆・公開


引用・参考文献

  1. 阿部余四男. (1922). 日本領土内のAmbystomidaeに就て. 動物學雑誌, 34, 328–332.
  2. Dunn, E. R. (1923). New species of Hynobius from Japan. Proceedings of the California Academy of Sciences, 4th Series, 12, 27–29.
  3. Dunn, E. R. (1923). The salamanders of the family Hynobiidae. Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences, 58, 445–523.
  4. Ito, J., Baba, A., Niwa, K., & Nishikawa, K. (2023). A note on underground egg sacs of the Tsushima salamander, Hynobius tsuensis (Caudata: Hynobiidae). Herpetology Notes, 16, 211–212.
  5. Kuramoto, M. (1972). Low natural fertilization rate in Hynobius tsuensis Abe (Amphibia: Urodela). Herpetologica, 28, 38–41.
  6. Matsui, M., Okawa, H., Nishikawa, K., Aoki, G., Eto, K., Yoshikawa, N., Tanabe, S., Misawa, Y., & Tominaga, A. (2019). Systematics of the widely distributed Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and its closest relatives. Current Herpetology, 38, 32–90.
  7. 松尾公則. (2014). 表紙の解説「やまはぜ」(対馬). 爬虫両棲類学会報, 2014(2)
  8. Niwa, K., Kuro-o, M., & Nishikawa, K. (2021). Discovery of two lineages of Hynobius tsuensis (Amphibia, Caudata) endemic to Tsushima Island, Japan. Zoological Science, 38, 259–266.
  9. Niwa, K., Tran, D. V., & Nishikawa, K. (2022). Differentiated historical demography and ecological niche forming present distribution and genetic structure in coexisting two salamanders (Amphibia, Urodela, Hynobiidae) in a small island, Japan. PeerJ, 10, e13202.
  10. Niwa, K. (2023) Conspecific oophagy by an unhatched larva of the Tsushima salamander, Hynobius tsuensis (Caudata: Hynobiidae), within an egg-sac. Salamandra, 59(3), 304–306.
  11. Niwa, K., Nishikawa, K., Matsui, M., Kanamori, S., & Kuro-o, M. (2023). Taxonomic reassessment of salamanders (genus Hynobius) from Tsushima Islands, Japan, with a resurrection of Hynobius tagoi Dunn, 1923 (Amphibia: Caudata). Zootaxa, 5339(3), 201–236.
  12. 小山準二. (1930). Hynobius tagoiHynobius tsuensis. 日本生物地理学会会報, 2(1), 21–35.
  13. Sato, I. (1937). A synopsis of the family Hynobiidae of Japan. Bulletin of the Biogeographical Society of Japan, 7, 31–45.
  14. 佐藤井岐雄. (1943). 日本産有尾類総説. 日本出版社. 大阪. 536p.

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