Cuora flavomarginata evelynae Ernst et Lovich, 1990
爬虫綱 > カメ目 > イシガメ科 > セマルハコガメ属 > セマルハコガメ > ヤエヤマセマルハコガメ
概要
[大きさ] [2]
背甲長 11 – 17 cm。まれに19cmに達する個体も。
[説明]
八重山諸島のみに分布する、日本固有亜種
陸生で、森林に生息する
雑食性で、生果やどんぐり、昆虫などの無脊椎動物や、大型動物の死体なども食べる
天然記念物に指定されており、捕獲が禁止されている
[保全状況]
国指定天然記念物
ワシントン条約附属書Ⅱ掲載種
石垣市自然環境保全条例保全種
IUCNレッドリスト2020:絶滅危惧ⅠB類 (EN)
環境省レッドリスト2020:絶滅危惧Ⅱ類
レッドデータおきなわ2017:絶滅危惧Ⅱ類
分布
[分布] [1,2]
石垣島、西表島
石垣島では於茂登岳とその山麓が分布の中心。平久保半島など北部、東部では森林の伐採、土地開発の進行と共に急激に数を減らしている。
西表島では島内の全域に広く分布するが、一部地域では見られなくなっている。
[生息環境] [1,2]
常緑広葉樹の自然林や、回復の進んだ二次林
湿地や河川などに近い、湿潤な林床を備えた照葉樹林を好む
林縁部の耕作地などでも見られる
西表島では道路に出てくることも多い
分類
[分類]
爬虫綱 > カメ目 > イシガメ科 > セマルハコガメ属 > セマルハコガメ > ヤエヤマセマルハコガメ
[タイプ産地]
[説明]
基亜種のチュウゴクセマルハコガメ Cuora flavomarginata flavomarginata は台湾や中国大陸東部に分布する
Ernst and Lovich (1990)は、肋甲板(下図参照)の斑紋が大きいことや、後脚前面の大型鱗が台湾のものと比べて少ない(八重山:8.8個, 台湾:10.8個, 中国大陸:8.9個)ことなどを根拠に、八重山諸島の個体群を新種 Cuora evelynae として記載した[3]。
一方、上記の記載論文での解析は、幼体と成体の差や、雌雄での差を考慮せずに行われていた。McCord and Iverson (1991)が新たにおこなった解析では、八重山の個体群に明確な独自性は検出されなかった。そのため種から亜種への格下げが行われ、亜種ヤエヤマセマルハコガメ Cuora flavomarginata evelynae として扱われるようになった[4]。
ヤエヤマセマルハコガメとチュウゴクセマルハコガメには模様の差異があるとされているが、実際にはこれらの形質は変異が大きく、形態形質のみで安定して見分けることは難しい[2]。
ヤエヤマセマルハコガメの助甲板(赤く囲ってある部分の鱗)。中心に明るい色の斑紋がある。
体の特徴
[形態] [1,2]
背甲はドーム状に盛り上がる
腹甲の前後に蝶番構造があり、甲羅を畳むことができる
オスはメスに比べ、頭が肥大化する。
頭部側面は淡い黄色
繁殖期のオスでは顎が橙色になる
[似た種との違い] [2]
背甲がドーム型に盛り上がることや、腹甲に蝶番構造があることなどから、同所的に生息するヤエヤマイシガメと容易に区別できる。
生態
[食性] [1,2]
雑食性で、様々な餌を食べることが知られている
シイ、カシの実のような堅果(どんぐり)
フトモモ、アダン、イヌビワといった生果
パイナップル、サツマイモ
無脊椎動物(昆虫類、ミミズ類、陸生貝類)
ブラーミニクラヘビ
大型動物の死体
[捕食] [1,2]
成体にはほぼ天敵がいないと考えられているが、幼体の死体(甲羅)が野外でしばしば確認されている
イリオモテヤマネコや鳥類が天敵として考えられている
[繁殖] [1,2]
繁殖期は長く、3 月下旬~9 月下旬に西表島で交尾が観察されている。
オスはメスの背甲前面を咥えて揺すり、メスが抵抗しなくなってから交尾する。
1シーズンに同一個体が複数回(1–3回)産卵することもある。
[卵] [1,2]
沖縄島での野外飼育観察では、4 月から 9 月に地面に 5–8 cm の深さの穴を掘り、卵を一度に 1–4 個産んだ。
卵の大きさは、長径 4.0–5.4 cm、短径 2.3–2.9 cm、重量 13.3–26.3 g であった。
卵は2–3ヶ月程度で孵化し、その時の孵化幼体の背甲長は3.3–4.2 cmであった。
[行動] [1]
ヤエヤマセマルハコガメの腹甲には蝶番構造があり、可動性がある。
危険を感じると体を引っ込めるだけでなく、腹甲を蝶番部で折り曲げることで甲羅を完全に閉じることができる。
甲羅の中から顔を出す個体
腹甲を折り曲げて完全に閉じこもった個体
その他
[文化]
八重山で本種を指す一般的な方言は「ヤマルコーザー」[2]
西表島の祖内集落では「ヤマミ」という方言が知られている。猪猟の際にセマルハコガメに出会うことは縁起が悪いとされ、遭遇した地点から山道の入り口まで引き返し、出直すという風習が知られている。[5]
[違法取引]
天然記念物に指定されており、採集が禁止されているが、ペットとしての違法採集が現在でも行われていると推測されている。[1]
台湾の基亜種は違法捕獲と密輸が既に大きな問題となっているほか、沖縄島北部のリュウキュウヤマガメに関しては60個体を密輸しようとした日本人が密輸先の空港で摘発されたという事例もある。[6]
本種も国外ではペットとして流通しており、多くの個体が密猟の危機に晒され、密輸されていると考えられている。
国内でも違法に採集した個体を飼育していた人物が書類送検されたという事例がある。
[コメント]
八重山諸島で身近に見ることのできるヤエヤマセマルハコガメ。異国情緒あふれる素晴らしいカメだと思います。持ち上げて腹甲の蝶番構造を確かめたいところですが、天然記念物に指定されており、触ることができないのが残念です。ところで、バンダイが売り出しているカプセルトイの「かめ」シリーズ。2021年7月に販売開始の「かめ04」には、蝶番構造を備えたセマルハコガメのフィギュアが入っています。外観を見たところ出来も良さそうなので、発売されたらガチャを回しに行ってみたいと思います。
執筆者:福山亮部
引用・参考文献
太田英利. 2014. 環境省(編)レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3 爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
田中聡, 戸田守. 2018.ヤエヤマセマルハコガメ.沖縄県文化環境部自然保護課(編),改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編)-レッドデータおきなわ-,pp. 190–191.沖縄県文化環境部自然保護課,那覇
Ernst, C. H. and J. E. Lovich., 1990. A new species of Cuora (Reptilia: Testudines: Emydidae) from the Ryukyu Islands. Proc. Biol. Soc. Wash., 103: 26-34.
McCord, W. P. and J. B. Iverson, 1991. A new box turtle of the genus Cuora (Testudines: Emydidae) with taxomic notes and a key to the species. Herpetologica, 47: 407-420.
石垣金星, 嵩原健二, 花城良廣, 加治工真市. 2001. 西表島・鳩間島及び新城島における動植物の方言名について. 西表島総合調査報告書, 35–59. 沖縄県立博物館, 那覇
伊澤雅子, 傳田哲郎, 玉城歩, & 小林峻. 2020. 琉球列島における希少カメ類の密猟防止対策としての普及啓発活動―琉球列島希少カメ類密猟に関するシンポジウム実行委員会―. 自然保護助成基金助成成果報告書, 29, 394-398.