キシノウエトカゲ

Plestiodon kishinouyei (Stejneger, 1901)

爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > キシノウエトカゲ

概要

[大きさ] 

  • 全長 28 – 41 cm[1]

[説明][1]

  • 日本最大のトカゲで、八重山諸島に分布
  • 平地の開けた環境で見られ、民家の周りでもよく見られる
  • 昆虫などの無脊椎動物だけでなく、カエルやトカゲも捕食する

[保全状況]

  • 国指定天然記念物
  • 環境省絶滅危惧Ⅱ類
  • 沖縄県準絶滅危惧種
  • 宮古島市自然環境保全条例保全種
  • 石垣島市自然環境保全条例保全種
分布

[分布][1,7]

  • 宮古諸島から八重山諸島の与那国島までにかけてのほとんどの島に分布
  • 宮古諸島の島々や波照間島では大きく数を減らしている

[生息環境][1,7]

  • 平地の開けた環境を好む。草地や畑、民家周辺、開けた二次林など。
  • 海岸付近の砂地でもよく見られる。
  • うっそうとした自然林内ではあまり見られず、森林内では河川沿いや林道など日が差す環境に出現する。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > キシノウエトカゲ

[タイプ産地] 

  • 宮古島[3]

[学名の意味] 

  • 種小名のkishinouyeiは、水産学者として知られた岸上鎌吉博士への献名[2,3]

[説明]

  • 1901年にSteijnegerによってEumeces kishinouyeiとして記載された[2]。記載論文[2]には数行の記述しかなく不十分な内容だが、1907年にSteijnegerが発表した”Herpetology of Japan and adjacent territory”[3]で、タイプ標本を含む複数の標本に基づく詳細な記述が行われている。
  • 採集者は”Tashiro”[3]。宮古島で生物調査を行っていた植物学者の田代安定による採集と思われる。
  • 本種は長らくEumeces属として扱われてきた。2000年以降、複数の論文でEumeces属の再検討が行われ、本種を含む東アジアや北米の種がトカゲ属 Plestiodon へ含められることになった[4]。

[系統的な位置付け][13]

  • DNA解析の結果、キシノウエトカゲは日本のトカゲ属の種よりも、中国大陸東部や台湾に分布するチュウゴクトカゲ(シナトカゲ)と近縁であることがわかっている。
    • トカゲ属Plestiodonは、遺伝的に見ると3つのグループに分かれている。ほとんどの日本の種は東アジアの多くの種を含むBグループに属すが、キシノウエトカゲは中国南部やインドシナに分布する種からなるAグループに属すことがわかっている。
    • キシノウエトカゲと最も近縁なチュウゴクトカゲP. chinensisは、台湾などに分布する。かつて八重山諸島と台湾、中国大陸は陸続きになっていたと推定されており、両者が遺伝的に近縁である理由には、このような生物地理的な背景があると考えられている。
体の特徴

[形態][1,7]

他のトカゲ属の種と同様に、成体と幼体で大きく見た目が異なる。

  • 幼体は黒い地に白色の縦条が7本入り、尾は空色
  • 成体になるにつれ、尾の空色は失われ、褐色となる
  • オス成体の背面は淡褐色で、側面は暗褐色
  • オス成体では特に、顔のあたりが赤みを帯びる
  • オスの頭部は成長とともに肥大する
  • メスは成体でも幼体時の白線が残る
  • 腹面は淡灰色で、黄色味を帯びることもある

[似た種との違い][1]

同属のイシガキトカゲとは以下により識別可能

  • 亜成体や成体はイシガキトカゲより明らかに大きい。イシガキトカゲの成体は最大でも16.5cmほどにしかならない。
  • 幼体は体に入る白色の縦条で識別可能。キシノウエトカゲの場合、最も外側(側面)の縦条が、前肢の付け根より前方で破線となる。
キシノウエトカゲ(雌成体)イシガキトカゲ(成体)  
生態

[食性][1]

[捕食]

イリオモテヤマネコ、大型鳥類、ヘビ類など。以下の種に捕食された記録がある。記録はないが、外来種のイタチやインドクジャク、ノネコなども重要な捕食者と考えられている[1]

[繁殖][1,7]

  • 3~4月にかけて交尾を行い、4月下旬から5月にかけて産卵すると考えられている。
  • 交尾期にはオス同士が噛みつき合う闘争が見られる。
  • メスは産卵後も卵に寄り添い、孵化までケアする。
  • 6月下旬から7月上旬にかけて4cmほどの孵化幼体が出現する。

[活動時間]

  • 基本的に昼行性とされ、日中に日光浴をする姿がよく観察される[7]。日中は、雨の降らない条件でよく見られる[10]。
  • 一方、夜間に活動していたという観察事例も複数存在する。夜間の場合、秋、特に雨の降る状況での観察事例が多い[10]。
その他

[文化]

人家の近くや畑などでよく見られたためか、昔から人々に親しまれてきた。

  • 宮古島では薬用もしくは食料として利用された歴史がある。薬用用途としては、小児喘息や滋養強壮目的で焼いたものが食されたとの聞き取り調査がある[11]。
  • 伊良部島の一部地域ではハイヌグルクン(畑のグルクン)と呼ばれ、沖縄の代表的な食用魚であるグルクンに味が似ていることが由来とされる[11]。
  • 方言が非常に多い。本種の方言は字(あざ)単位で異なる場合が多い[7]。

[保全]

外来種の侵入による捕食が、一部地域での本種の減少を引き起こしていると推測されている。

  • 八重山諸島では外来のインドクジャクが各地で分布を拡大している。新城島では、クジャクの侵入後にキシノウエトカゲが減少したという地元住民の証言もある[12]。
  • 宮古諸島や波照間島にはニホンイタチが導入されており、伊良部島、下地島、波照間島や宮古島の一部地域でのキシノウエトカゲの激減に関与している疑いがある[7]。

[コメント]

鬱蒼とした森よりも、民家や畑の周辺などで見られる人々にも身近なトカゲです。筆者は八重山諸島に行くと夜の森ばかりに行ってしまうので、なかなか本種に出会えません。余談ですが、西表島のゲーダ橋の欄干には立派なキシノウエトカゲのオブジェがあります。旅の途中に立ち寄ってみるのはいかがでしょうか。

執筆者:福山亮部


引用・参考文献

  1. 太田英利. 2014. 環境省(編)レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  2. Stejneger, L. 1901. Diagnosis of eight new batrachians and reptiles from the Riu Kiu Archipelago, Japan. Proc. Biol. Soc. Washington 14: 189-191
  3. Stejneger, LEONHARD H. 1907. Herpetology of Japan and adjacent territory. Bull. US Natl. Mus. 58: xx, 1-577
  4. 疋田努. 2006. トカゲ属の学名変更〜EumecesからPlestiodonへ〜. 爬虫両棲類学会報. 2006(2): 139-145.
  5. 安間繁樹. 1981. イリオモテヤマネコの採食行動. 東京大学農学部演習林報告, 70, 81-140.
  6. 時田喜子, 吉野智生, 大沼学, 金城輝雄, & 浅川満彦. 2014. 八重山諸島におけるカンムリワシの胃内容物. Bird Research, 10, S13-S18.
  7. 戸田守,2018.キシノウエトカゲ.沖縄県文化環境部自然保護課(編),改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編)-レッドデータおきなわ-,pp. 205–206.沖縄県文化環境部自然保護課,那覇
  8. Mori, A. and H. Moriguchi. 1988. Food habits of the snakes in Japan: A critical review. The Snake 20: 98-113.
  9. 浜中京介, 森哲, 森口一. 2014. 日本産ヘビ類の食性に関する文献調査. 爬虫両棲類学会報 2014(2): 167-181.
  10. Diaz-Sacco, J. J. (2015). Nocturnal activity records of the kishinoue’s giant skink, Plestiodon kishinouyei, on Iriomote-jima Island. Current herpetology, 34(2), 172-176.
  11. ハイヌ(畑の)グルクン/久貝勝盛. 宮古毎日新聞 http://www.miyakomainichi.com/2011/09/23332/
  12. 田中聡, & 嵩原健二. 2003. 先島諸島における野生化したインドクジャクの分布と現状について. 沖縄県立博物館紀要, 29, 19-24.
  13. Brandley, M. C., OTA, H., Hikida, T., Nieto Montes De Oca, A., Feria-Ortiz, M., Guo, X., & Wang, Y. 2012. The phylogenetic systematics of blue-tailed skinks (Plestiodon) and the family Scincidae. Zoological Journal of the Linnean Society165(1), 163-189.

「キシノウエトカゲ」への4件のフィードバック

    1. 初めまして。Web両爬図鑑編集部の福山と申します。

      いただいていたコメントに関してですが、図鑑ページを閲覧する際にタブは開かれていましたでしょうか。

      本サイトの図鑑ページには、概要のタブ以外に分類、体の特徴、生態等のタブがありますので、そちらをクリックして閲覧いただければ、詳しい特徴に関する記載もあるかと思います。

      ご質問の意図が異なるようでしたら、改めて詳細に教えていただけると助かります。

      どうぞよろしくお願いいたします。

  1. ピンバック: ニホントカゲ – Web両爬図鑑

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です