ベッコウサンショウウオ

Hynobius ikioi Matsui, Nishikawa et Tominaga, 2017

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属

概要

[大きさ] [1]

  • 全長 13–17 cm
  • 頭胴長 7–9 cm

[説明]

  • べっ甲のような体色が特徴的な、大型の流水性サンショウウオ。春、渓流の岩の下に細長い卵のうを産みつける。クモや昆虫、ミミズなどを捕食する。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020 絶滅危惧Ⅱ類(VU)。宮崎県・鹿児島県の指定希少野生動植物種、および熊本県の天然記念物に指定され、採集は禁止されている。
分布

[分布] [1,3]

  • 熊本、宮崎、鹿児島の標高500–1500mの山地に分布。

[生息環境][1,2]

  • 生息場所は山地の渓流付近。岩礫や倒木の下、地中などから見つかる。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属

[タイプ産地][1] 

  • 宮崎県

[説明][1,4]

  • 本種は長く H. stejnegeri Dunn, 1923 という学名で呼ばれていた。しかし後に、本種だと考えられていた H. stejnegeri の模式標本が実はコガタブチサンショウウオだと判明。stejnegeriはコガタブチの学名となり、本種には学名が付けられていないことになったため、2017年新たに現在の学名が付された。
  • 学名の ikioi は日本産有尾類の研究に大きな貢献をした佐藤井岐雄博士への献名。
  • 系統的にはアマクササンショウウオやオオスミサンショウウオなどと近縁で、それらと一群を成す。
体の特徴

[形態][1]

  • 本種は体色が特徴的で、黒色の地に大小の鮮やかな黄色斑があり、しばしば最も美しいサンショウウオの一つと言われる。ただし変異が大きく、黄斑のないものもある。幼体の背面には銀小点が散る。
  • 大型で頑健な体格をしている。鋤骨歯列は深いV字。肋条数は13–14。四肢は短い。後肢の第5指はよく発達する。尾は筒状で、先端部が扁平する。

[似た種との違い]

  • コガタブチサンショウウオと同所的に分布するが、本種のほうが大型で、模様も異なる(ベッコウは黒地に明瞭な黄色の斑紋をもつ一方、コガタブチは褐色の地に灰褐色の細かな斑点が散布し地衣状斑をなす)ことから識別できる。
生態

[捕食]

  • クモや昆虫、ミミズなどを捕食する。[1]

[繁殖]

  • 繁殖は4月上旬から5月上旬にかけて山地の渓流で行われ、雌は岩の底面に一対の卵を産み付ける。[1]

[卵]

  • 卵嚢はくるりと巻いた紐状で、クリーム色の卵を20個程度含む。[5]

[幼生][1]

幼生 宮崎県9月

  • 幼生は褐色で、黒色の斑紋をもつ。指先には爪を有する。
  • 通常は年内に変態するが、一部は越冬し、より大きくなってから翌年変態する。
  • ヨコエビ類や水生昆虫、同種他個体などを捕食するらしい。
その他

[献名]

  • 本種の学名の由来となった佐藤井岐雄博士は戦時中の1943年に出版された『日本産有尾類総説』の著者として知られる。両生類の細胞学的研究で著名な川村智治郎博士とは広島大学における同僚。国産有尾類の研究発展に大きな貢献をしたが、原爆に被爆し亡くなっている。[6, 7]

執筆者:木村楓

2021年10月 執筆・公開


引用・参考文献

  1. Matsui M, Nishikawa K, Tominaga A (2017) Taxonomic Relationships of Hynobius stejnegeri and H. yatsui, with Description of the Amber-Colored Salamander from Kyushu, Japan (Amphibia: Caudata). Zoolog Sci 34:538–545
  2. 佐藤井岐雄 (1943) 日本産有尾類総説. 日本出版社
  3. 日本爬虫両生類学会 (2021) 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版.
  4. Nishikawa K, Matsui M (2014) Three new species of the salamander genus Hynobius (Amphibia, Urodela, Hynobiidae) from Kyushu, Japan. Zootaxa 3852:203–226
  5. Nishikawa K, Sato Shin’ichi, Matsui M (2008) A note on the clutch size and shape of egg sacs of Hynobius boulengeri from the sobo-katamuki mountains, Kyushu, Japan (urodela: Hynobiidae). Curr Herpetol 27:29–34
  6. 宇都宮妙子 (2001) 佐藤井岐雄教授追憶の記 1. 両生類誌7: 39–44
  7. 宇都宮妙子 (2002) 佐藤井岐雄教授追憶の記 2. 両生類誌8: 25–32

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