ホムラハコネサンショウウオ

Onychodactylus pyrrhonotus Yoshikawa et Matsui, 2022

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > ハコネサンショウウオ属 > ホムラハコネサンショウウオ

  • 成体(京都府)
概要

[英名] 

Fireback clawed salamander [5]

[大きさ] [5]

  • 頭胴長 6 – 8 cm
  • 尾長は頭胴長の100–130%程度

[説明]

  • 北陸・中部・近畿地方の一部の山地に生息するサンショウウオ。
  • 山地の森林に生息し、繁殖の時だけ水場に集まる。
  • ハコネサンショウウオとされていたが、2022年に新種として記載された。
  • 学名と和名は背面の緋色の帯状模様から名付けられた[5]。

[保全状況]

滋賀県で大切にすべき野生生物(滋賀県版レッドデータブック)2020年度版:希少種(ハコネサンショウウオとして)
京都府レッドデータブック2015:絶滅寸前種(ハコネサンショウウオとして)
三重県レッドデータブック2015:絶滅危惧II類(ハコネサンショウウオとして)
奈良県版レッドデータブック 2016 改訂版:絶滅危惧種(ハコネサンショウウオとして)

分布

[分布] [5]

  • 北陸地方(石川、福井県)、中部地方(岐阜県)と近畿地方(滋賀、京都、三重、奈良県)
  • 確認されていないが和歌山県にも生息している可能性が高い

[生息環境] 

  • 冷涼な山地の森林の林床に生息する[5]。
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > ハコネサンショウウオ属

[タイプ産地] 

  • 滋賀県大津市 [5]

[説明]

  • 長らくハコネサンショウウオO. japonicusとされていたが、遺伝的に大きく分化していることなどから2022年に新種記載された[5]。
  • 系統的にはシコクハコネサンショウウオに最も近い[2][3][4][5]。
  • 多くの産地でハコネサンショウウオと同所的に見つかるが、生殖隔離が存在していると考えられており、これまで見つかっているこの2種の交雑個体は1個体のみである[5]。
体の特徴

[形態][5]

  • 細長い体で肺がなく、頭胴長よりも長い尾を持つ。 
  • 繁殖期の成体は指先に黒い爪を持つ。繁殖期のオスは後肢が太くなり、手のひらと足の裏が黒くなる。繁殖期のメスは足の裏のみが黒くなる。
  • メスはオスよりも頭胴長が大きい。
  • 肋条数は12–13。
  • 胸の一対の暗色班は持たないかあっても不明瞭。
  • 紫がかった黒色の地色で背中に緋色やオレンジ、ピンク色、まれに黄色の帯状の模様が入る。
  • 体側や腹面は紫がかった灰色で体側面には背面の帯状の模様と同じ色の斑点や白点が入り、腹面には銀白色の斑点が入る。
  • 紀伊半島の個体群は体サイズが大きく、背面の色が薄い傾向がある。

[他のサンショウウオとの違い][5]

[同所的に分布するハコネサンショウウオとの違い][5]

  • 本種とハコネサンショウウオは分布域が重なるが、本種は緋色からピンク色の帯状の模様を背面に持ち、その帯状の模様の境界が明瞭であること及び腹面に白点を持つことで見分けられる。しかし、紀伊半島のハコネサンショウウオは本種と極めて似ており、さらに当地では両種が同所的に生息していることから、外見だけでの識別は困難であるが、紀伊半島のハコネサンショウウオは胸の一対の暗色班を持つことが多く、腹面の白点は無いかあっても少ない点が異なる。

[他のハコネサンショウウオ種群との違い][5]

  • 同属種とはハコネサンショウウオの一部の個体群を除き、本種は緋色からピンク色の帯状の模様を背面に持ち、その帯状の模様の境界が明瞭であること及び腹面に白点を持つことで見分けられる。
  • 中国地方のハコネサンショウウオは本種と背面の模様が似るが、本種は胸の一対の暗色班を持たないかあっても不明瞭であることや腹面の白点がより多いことで区別できる。また中国地方に本種は生息しない。
生態

[被食][1]

[繁殖][5]

  • 5月下旬〜7月上旬、山地渓流の源頭部に集まり、伏流水中で産卵する。 
  • 野外で卵嚢が観察されたことはこれまでない。
  • ハコネサンショウウオと同じ場所で繁殖すると考えられており、幼生は同じ沢で生活する。

[卵][5]

  • 卵は黄白色で卵数は一対あたり15個。外皮は強靭で、極めて弱い条線が入る。

[幼生][5]

  • 指先に黒い爪を持つ。
  • 沢で見つかる個体は30〜85mmほどで、変態まで2年以上かかる。カゲロウの幼虫などの水生昆虫や水生無脊椎動物を捕食する。

執筆者:福山伊吹

2022年3月公開


引用・参考文献

  1. 吉川夏彦. (2008). ヤマカガシ幼体によるハコネサンショウウオ幼体の捕食例. 爬虫両棲類学会報, 2008(1), 8-10.
  2. Yoshikawa, N., Matsui, M., Nishikawa, K., Kim, J. B., & Kryukov, A. (2008). Phylogenetic relationships and biogeography of the Japanese clawed salamander, Onychodactylus japonicus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and its congener inferred from the mitochondrial cytochrome b gene. Molecular Phylogenetics and Evolution, 49(1), 249-259.
  3. Yoshikawa, N., Matsui, M., Nishikawa, K., Misawa, Y., & Tanabe, S. (2010). Allozymic variation in the Japanese clawed salamander, Onychodactylus japonicus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), with special reference to the presence of two sympatric genetic types. Zoological science, 27(1), 33-41.
  4. Yoshikawa, N., Matsui, M., Tanabe, S., & Okayama, T. (2013). Description of a new salamander of the genus Onychodactylus from Shikoku and Western Honshu, Japan (Amphibia, Caudata, Hynobiidae). Zootaxa, 3693(4), 441-464.
  5. Yoshikawa, N., & Matsui, M. (2022). A New Salamander of the Genus Onychodactylus from Central Honshu, Japan (Amphibia, Caudata, Hynobiidae). Current Herpetology, 41(1), 82-100.