ヒガシニホントカゲ

Plestiodon finitimus Okamoto et Hikida, 2012

爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > ヒガシニホントカゲ

  • ヒガシニホントカゲ成体雄
概要

[大きさ][1,2,3]

  • 頭胴長: 60–90 mm
  • 全長 :130–270 mm
  • 中部地方以北の個体群では頭胴長70 mmを超える個体はほとんどいない。

[説明][1,2]

  • 地上性で主に無脊椎動物を捕食する。
  • 昼行性で日光浴している姿をよく見かける。
  • 幼体時は黒地に黄白縦条を5本持ち、鮮やかな青の尾を持つ。
  • 成長とともに体色が変化し、成体では褐色で体側に茶褐色の縦条が入る。この変化はオスで顕著であり、メスでは大型の個体であっても幼体時の体色がある程度残ることが多い。
  • 卵生:一度に6–15個ほど産卵する。

[保全状況]

  • 福島県:準絶滅危惧種[15]
  • 栃木県:絶滅危惧Ⅱ類[16]
  • 千葉県:重要保護生物[17]
  • 埼玉県:準絶滅危惧種[18]
  • 東京都:(区部:絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)、北多摩:絶滅危惧Ⅱ類(VU)、南多摩:絶滅危惧Ⅱ類(VU)、西多摩:準絶滅危惧(NT)、本土部絶滅危惧Ⅱ類(VU)[19]
  • 環境省レッドリスト2020未選定
  • IUCNレッドリスト:LC[20]
分布

[分布][1,2,4]

  • 北海道、国後島、および本州東部(ただし伊豆半島を除く)に広く分布する
  • 本州における分布は、若狭湾から琵琶湖を通り、三重県内、和歌山県内では中央構造線に抜ける線を境界とし、それより東側で見られる。
  • 国外ではロシア沿海州にも分布する。
  • ニホントカゲならびにオカダトカゲとの分布境界部ではそれぞれ狭い交雑帯を形成している。

[生息環境][2,3]

  • 市街地、森林、農地周辺の日当たりのよい場所を好んで生息する。
  • 河原や道路際などの日当たりのよい場所で日光浴をしている姿がよく観察される。
  • 国後島では温泉水の流れる場所の周辺にのみ生息している[4]。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > ヒガシニホントカゲ

[タイプ産地] 

  • 東京都大田区池上[1]

[種小名の由来] 

  • ニホントカゲとオカダトカゲと隣接した分布をしているため、「接する」や「隣り合う」という意味を持つラテン語の「finitimus」とされた。また、この語は「関係する」や「似ている」という意味もあり、ニホントカゲとオカダトカゲとの形態的類似からも由来する。
体の特徴

[形態][1]

  • 成体と幼体で見た目が大きく異なる。
  • 繁殖期のオスはメスや幼体よりも相対的に大きな頭部を持ち、頭部から腹部表面は明るいオレンジ色。
  • 幼体は黒地に黄色の縦条が5本入り、縦条は尾の中間部まで達する。尾は青色。
  • メスは大型の個体であっても幼体時の体色がある程度残ることが多い。

[似た種との違い]

本種と分布域が隣接するニホントカゲオカダトカゲとは頭部の鱗の形状にある程度の識別することができる。

ヒガシニホントカゲ的な形態を示す個体はニホントカゲで45パーセント、オカダトカゲで43パーセントほどであり、種の識別においてあまり信用することのできる形態ではない。

生態

[生活史][2,3]

  • 昼行性で、日光浴により体温を適温に上昇させて活動する。
  • 基本的に地表で採餌などの活動をする。
  • 活動時は26℃から36.5℃の体温を維持して活動する[5]。
  • 日光浴の場所として樹上を利用していることもある[6]。
  • オスは3月中旬ごろに冬眠から目覚め、日当たりのよい場所で日光浴をする。
  • 4月から5月にかけての交尾期にオスは活発に活動する。この時期ではオス同士が互いに頭部背面をかみ合う闘争行動がみられる。
  • 冬季は冬眠する。

[食性][1]

  • 主に節足動物やミミズなどの小型無脊椎動物を捕食する[2]。
  • 国後島で行われた糞内容物分析では、カワゲラ目、アミメカワゲラ目、バッタ目、チャタテムシ目、カメムシ目、コウチュウ目、膜翅目(ハチ目)、毛翅目(トビケラ目)、双翅目(ハエ目)、クモ目、ザトウムシ目、腹脚綱が検出された[7]。
  • これらの小型無脊椎動物のほかに、ヒガシニホントカゲが幼体の同種他個体[8]やニホンカナヘビの幼体[9]を捕食した例も報告されている。

 [捕食]

天敵はニホントカゲやオカダトカゲと同様であると考えられ、シロマダラやシマヘビなどのヘビ類[10,11]に捕食されていると考えられる。その他,、ホンドテン [12]やイエネコ [13]に捕食された例も報告されている。

[繁殖][1,3]

  • 4月から5月にかけて交尾を行うと考えられている。
  • 交尾期にはオス同士が頭部を噛みつき合う闘争行動が見られる。
  • 5月下旬から6月上旬にかけてメスが6–15個程の卵を石などの下に産卵し、メスは卵が孵化するまで卵に付き添う。
  • 7月下旬から8月上旬にかけて30 mmほどの孵化幼体が出現する。

[寄生虫][14]

線虫類が知られている

  • Kurilonema markovi
  • Meteterakis japonica
その他

[保全]

都市部の小規模な緑地においても生息が確認されている。都市部においては、緑地の連続性、多孔質空間の面積率、柔らかい土壌が生息に重要であると考えられている[21]

執筆者:伊與田翔太


引用・参考文献

  1. Okamoto, T., & Hikida, T. (2012). A new cryptic species allied to Plestiodon japonicus (Peters, 1864)(Squamata: Scincidae) from eastern Japan, and diagnoses of the new species and two parapatric congeners based on morphology and DNA barcode. Zootaxa, 3436(1), 1-23.
  2. 岡本卓.(2021).トカゲ属,日本爬虫両棲類学会(編),新 日本両生爬虫類図鑑.サンライズ出版,pp.132-141.
  3. 関慎太郎.(2018).疋田努(監). 野外観察のための日本産 爬虫類図鑑 第2版.緑書房,pp.212.
  4. Orlov, N. L., Sundukov, Y. N., & Sundukova, L. A. (2018). Record of a new locality and general distribution of the Far Eastern Skink (Plestiodon finitimus) on the island of Kunashir (Kuril Archipelago, Far East of Russia). Russian Journal of Herpetology25(3).
  5. L Ya Borkin, V A Cherlin, A M Basarukin and M Yu Maimin, 2005. Thermal Biology of the Far – East Skink(Eumeces latiscutatus) on Kunashir Island, Conventional Herpetology, Vol. 3/4, p5-28[in Russian]
  6. 島田知彦.(2017).高木層におけるヒガシニホントカゲの観察事例. 爬虫両棲類学会報.2017(2):187-188.
  7. Sundukov, Y. N., Sundukova, L. A., & Orlov, N. L. (2020). Food Composition of the Far Eastern Skinks (Plestiodon finitimus) on the Kunashir Island (Kuril Islands, Russian Far East). Russian Journal of Herpetology, 27(5), 303-306.
  8. 岡本卓, & 栗山武夫. (2014). ニホントカゲ・ヒガシニホントカゲの種内捕食 3 例の記録. 爬虫両棲類学会報, 2014(2), 103-105.
  9. 伊與田翔太. (2020). ヒガシニホントカゲによるニホンカナヘビの捕食事例. 三河生物, 13, 21-22.
  10. 浜中京介, 森哲, 森口一. (2014). 日本産ヘビ類の食性に関する文献調査. 爬虫両生類学会報. 2014(2):167-181.
  11. Mori, A & Moriguchi, H. (1988). Food habits of the snakes in Japan: a critical review. Snake, 20, 98-113.
  12. 鈴木茂忠, 宮尾嶽雄, 西沢寿晃, & 高田靖司. (1977). 木曾駒ヶ岳の哺乳動物に関する研究 第 III 報 木曾駒ヶ岳東斜面低山帯上部および亜高山帯におけるホンドテンの食性 (Doctoral dissertation, Shinshu University Library).
  13. 藤田宏之, & 奥村みほ子. (2021). 川の博物館におけるイエネコによるヒガシニホントカゲの捕食と 「ネコ問題」. 紀要= Bulletins and reports, (21), 33-36.
  14. 長谷川英夫.(2017).爬虫類の寄生虫学,松井正文(編),これからの爬虫類学. 裳華房,pp. 85-97.
  15. 福島県(2020) ふ く し ま レ ッ ド リ ス ト2020年版. https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/443065.pdf(2022年10月7日アクセス).
  16. 栃木県(2018)栃木県版レッドリスト(第3次/2018年 版 ), 爬 虫 類. https://www.pref.tochigi.lg.jp/d04/documents/09hatyurui.pdf (2022年10月7日アクセス).
  17. 千葉県環境生活部自然保護課.(2019).千葉県レッドリスト動物編2019年改訂版.chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.bdcchiba.jp/wp-content/uploads/2022/03/redlist2019.pdf(2022年10月24日アクセス)
  18. 埼玉県(2018)埼玉県レッドデータブック動物編 2018 (第4 版). https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/129694/12reddatabook-hachuurui.pdf (2022 年 10 月 7 日アクセス).
  19. 坂田修一.(2020).東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)2020年版.https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/red_data_book/redlist2020.files/10_hacyurui_rl2020_1.pdf (2022年10月7日アクセス)
  20. Kidera, N. & Ota, H. 2017. Plestiodon finitimus (errata version published in 2020). The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T96265253A187859194. https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T96265253A187859194.en.
  21. 土金慧子, & 大澤啓志. (2008). 小規模な都市緑地におけるトカゲ類の生息に関する研究. In 環境情報科学論文集 Vol. 22 (第 22 回環境情報科学学術研究論文発表会) (pp. 181-184). 一般社団法人 環境情報科学センター.

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