ニホントカゲ

Plestiodon japonicus (Peters, 1864)

爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > ニホントカゲ

  • ニホントカゲ 成体 雄
概要

[大きさ][1]

  • 頭胴長 約60–96 mm
  • 尾長 頭胴長の約100–200 %
  • 孵化直後の幼体の頭胴長 約30 mm

[説明][1,3,7,13]

  • 日本固有種で、近畿北部(若狭以西、琵琶湖西岸および野洲川以南の東岸、三重県北西部、奈良県北部、和歌山県北部)、中国、四国、九州及び対馬を除く周辺島嶼(大隅諸島、男女群島など)に分布する[1].
  • 市街地,森林,農地周辺などの日当たりの良い場所を好んで生息し[1]、日光浴している姿がよく観察される[3].
  • 主に昆虫やクモ、ミミズを食べる[3].
  • 捕食者などに襲われた際には、尾を自切して逃げることがある[3].
  • 春から秋に活動し[1]、冬季は土中や石垣の隙間に潜って冬眠する[3].
  • 繁殖期にはオス同士の儀式的な闘争行動がみられる[7].
  • 寄生虫には二生類、線虫類が知られている[13].

[保全状況][4,5,6,8,9,10,14]

  • 滋賀県:要注目種[5]
  • 京都府:要注目種[6]
  • 広島県:準絶滅危惧種(NT)[8]
  • 香川県:準絶滅危惧種(NT)[9]
  • 鹿児島県:地域個体群(消滅)(悪石島・平島)[4,14]
  • IUCNレッドリスト:LC[10]
分布

[分布][1,2]

  • 日本固有種[1].
  • 近畿北部(若狭以西、琵琶湖西岸および野洲川以南の東岸、三重県北西部、奈良県北部、和歌山県北部)、中国、四国、九州及び対馬を除く周辺島嶼(大隅諸島、男女群島など)に分布[1].
  • 九州東部または南部から人為的に持ち込まれたものが伊豆諸島八丈島に定着し、在来のオカダトカゲとの間で交雑が生じている[1].

およその分布図:上図における黒の実線内側に分布.星印(★)は移入場所である伊豆諸島八丈島の場所を示す.参考文献1,2 および国土地理院地図より作成.

[生息環境][1,3]

  • 市街地,森林,農地周辺などの日当たりの良い場所を好んで生息する[1].
  • 道路脇や石垣、庭先などで日光浴している姿がよくみられる[3].
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > トカゲ科 > トカゲ属 > ニホントカゲ

[タイプ産地] 

長崎[2]

[日本のトカゲ属の学名変更]

過去にニホントカゲ(Eumeces latiscutatus (Hallowell,1861)→Eumeces japonicus (Peters,1864))とオカダトカゲ(Eumeces okadaeEumeces latscutatus)の学名の対応が変更され、その後属名が変更された(Eumeces→Plestiodon).詳しくはこちらの分類タブの説明欄を参照.

体の特徴

[形態][1,11]

  • 体鱗列数は24–28 列の変異があるが、原則26 列.
  • 幼体は頭胴部の背面が黒色または黒褐色で、尾は鮮やかな青色を呈する.また、背面から体側にかけて5 本の黄色縦条がある.
  • 成長に伴って縦条および尾の青色は不明瞭になり、背面は褐色となる.
  • 体色変化は雄でより顕著で、雌では大型の個体でも幼体の体色パタンがある程度残ることが多い.
  • 成体では頭部の形状に性的二型があり、雄では頭幅が広くなる二次性徴を示す.
  • 春季の雄は口の周縁部、咽頭部、腹面が橙色の婚姻色を呈する.婚姻色の現れる部位には個体変異がある.
  • 四肢は比較的短いがよく発達し、大腿部の後面に不規則に並ぶ大型鱗はない.
  • 男女群島産の個体では、本土産の個体と比べて、体鱗列数が多い、趾下板が多い傾向がある、幼体の体色が全体的に黒っぽい、幼体の頭部のストライプ模様のパタンが異なる、比較的尾が短い傾向があるなどの特徴を有する[11].

[似た種との違い][1,2]

本種とヒガシニホントカゲおよびオカダトカゲとの見分け方.(このページも参照).

ニホントカゲ(成体 雄)オカダトカゲ(成体 雄)  

ニホントカゲは後鼻板は原則として明瞭かつ小型で、前額板を上唇板から隔てないが、オカダトカゲは後鼻板が大型で,前頬板と上唇板は接しない.

ニホントカゲ(成体 雄)ヒガシニホントカゲ(成体 雄)  

ニホントカゲは前額板が互いに接するが、ヒガシニホントカゲは接しない.

なお、以上の形質で完全に見分けられるわけではない.例えば、前額板が互いに接していないニホントカゲも存在する.

生態

[生活史][1,3,11,12]

  • 昼行性で、日光浴により体温を上げて活動する[1].
  • 主に昆虫やクモ、ミミズを食べる[3].
  • 春から秋に活動し[1]、冬季は土中や石垣の隙間に潜って冬眠する[3].
  • 3 月上旬に成体の雄が冬眠から目覚めて出現する.この時期には特に、陽だまりで日光浴をしているところがよくみられる[1,12].
  • 前年生まれの幼体は4 月上旬に出現し、雌は4 月中旬に出現する[12].
  • 交尾期は4–5 月頃だと考えられている[1,12].
  • 繁殖期にはオス同士が互いの頭をかみ合う闘争行動が知られる[1].
  • 10 月には多くの個体が冬眠し、11 月には見られなくなる[12].
  • 捕食者などに襲われた際には尾を自切して逃げることがある[3].
  • 男女群島の個体群では木登りを行う様子が観察されている.このことには、日光浴に適した場所を求めての行動である可能性が考えられている[11].
  • 男島では、本土の個体群よりも、高い密度で本種が生息している[11].

[食性・被食]

食性や被食については近縁種のヒガシニホントカゲやオカダトカゲと類似していると考えられる(ヒガシニホントカゲオカダトカゲを参照).

[繁殖][11,12]

以下の多くは京都の個体群についての記述[12].

  • 交尾は4 月中旬から5 月上旬に行われていると考えられているが、野外で観察されることは稀.
  • 交尾期には雄が別個体を追いかける様子や闘争行動を行っている様子が観察されることがある.この闘争行動は儀式化されたものであることが知られている.
  • 雌は5 月下旬から6 月上旬にかけて、巣穴で6-15 個程度の卵を産卵する.体の大きい雌ほど産卵数の多い傾向にある.
  • 産卵を終えた雌は、7 月下旬から8 月上旬に幼体が孵化するまで卵に付き添う.幼体は孵化後、巣から出て分散する.
  • 孵化直後の幼体は30 mm程度の頭胴長で、冬眠までに30–46 mm程度まで成長する.
  • 雄は孵化後2度目の春までには性成熟し、その際の大きさは頭胴長にして60–74 mm程度.
  • 雌は孵化後2度目の春の時点で約55–88 mmの頭胴長であり、その中でも70–88 mm程度の大型の雌はその年の4 月中旬から6 月上旬にかけて性成熟する.比較的小型の個体では3 度目の春までに性成熟する個体も存在する.
  • 男女群島の個体群では、京都の個体群に比べて、雄で性成熟の遅れがみられる[11].
  • 男女群島産の大型の雌では、卵管の様子や現地調査の結果から、必ずしも毎年繁殖しているわけではないことが予測されている[11].

[闘争行動][6]

繁殖期には以下のような、オス同士の闘争行動が知られる.

  • 一方が防御に、もう一方が攻撃に回る.
  • 防御側は背を曲げ、頭を相手側に傾けた独特な背曲げ姿勢をとる.さらに頭を相手に押し付けるように振る.
  • 攻撃側は後方から背曲げ姿勢をとりながら近づき、相手の体に吻端で確かめるように触ってから、側頭部にかみつこうとする.しかし、防御側の背曲げ姿勢のために頭部をくわえることができない状態が続く.
  • 上記のような状態で2 匹は弧を描くように回る.
  • 実力が伯仲している場合は、攻撃側と防御側が何度か交代する.
  • このような一見激しい闘争行動は、競争相手の実力を測るための儀式であると考えられている.また、野生下では、相手を殺してしまうことはめったにない.
  • 繁殖期を何度か経験した雄の頭頂部には、闘争時の歯の痕などの傷がついていることが多い(下の画像の矢印の箇所).

[寄生虫][13]

二生類、線虫類が知られている.

  • Mesocoelium brevicaecum(二生類)
  • Aplectana macintoshii (線虫類)
  • Cosmocercidae gen. sp. (線虫類)
  • Kurilonema markuvi (線虫類)
  • Meteterakis amamiencis (線虫類)
  • Meteterakis japonica (線虫類)
  • Oswaldocruzia socialis (線虫類)
その他

[日本列島におけるトカゲ属の分布][14]

日本列島にはトカゲ属(Plestiodon)に属する3 種類(ニホントカゲ、ヒガシニホントカゲ、オカダトカゲ)が狭い接触帯を介して側所的に分布している.

  • それぞれの分布境界線は、ニホントカゲとヒガシニホントカゲでは若狭湾沿岸頭部~琵琶湖~野洲川~三重県北西部~奈良県中部~和歌山県北部であり、ヒガシニホントカゲとオカダトカゲでは、酒匂川~御殿場市北西部~富士山~冨士宮市中南部~富士川下流.
  • ヒガシニホントカゲと考えられるものが極東ロシア本土(沿海地方~ハバロフスク地方南部)の日本海沿岸部で記録されているが、過去数十年に渡って発見記録がない.

上図:日本列島のトカゲ属の分布. 伊與田 翔太が作成したものを著者が改変.

3 種はほぼ単系統群であり、3 種類を合わせた分布域がほぼ日本列島全域となることから、日本列島広域分布型の変形ととらえることができる(ただし、ロシアの分布域を除く).

さらに、以下のような記述がある.

  • オカダトカゲの分布はかつて本州から離れた地塊であった伊豆半島の特異な地史を受けて形成されたと考えられている.
  • 伊豆諸島八丈島では人為的に持ち込まれたニホントカゲと自然分布するオカダトカゲとの間で交雑帯を介した排他的な分布が生じている.
  • 北海道の道東ではヒガシニホントカゲが温泉地付近に偏って分布する傾向がある.

[日本産のトカゲ属の分布形成過程][14]

日本産トカゲ属は全部で10 種類が生息しており、キシノウエトカゲ(Plestiodon kishinouyei)を除く9 種類がニホントカゲ種群に属する.

ニホントカゲ種群は以下の3 系統からなる.

これらの3 系統は中新世後半ごろに日本列島・中琉球・南琉球+台湾の3 地域に隔離されることで生じ、鮮新世ごろにオキナワトカゲ複合群の祖先種が中琉球に二次的に分布拡大することで今日の分布の大枠が完成したと考えられている.

その後、ニホントカゲ複合群が日本列島内で多様化し、オキナワトカゲ複合群で複雑な洋上分散が生じ、比較的複雑な分布パタンが形成されたという理解が今日的.

上図:琉球のトカゲ属の分布. 伊與田 翔太が作成したものを著者が改変.

[コメント]

 ニホントカゲの素晴らしさに気付いたのは筆者が小学生の頃でした。通っていた小学校には「飼育小屋」という施設の横にプランターなどの園芸用品置き場があり、そこで1匹のトカゲと出会いました。そのトカゲは大型のニホントカゲの雄成体で、脱皮直後なのか、まさに金色に輝いていました。目がクリクリでちょろちょろと動く、ツヤツヤな彼に魅了された筆者はそれ以来、ニホントカゲを探し続けています。

 さて、ニホントカゲはかなり身近な生き物であるといえます。分布域の多くの地域で普通種であり、目にする機会も多いのではないでしょうか。筆者と同じように夢中で捕まえた人もいるかもしれません。ニホントカゲはかわいい、かっこいいを兼ね備えた生き物ですが(筆者主観)、そういった表面的な情報以外で、知られていないことが多く残されています。例えば、普段何を食べて生活しているのでしょうか?日光浴以外ではどのように活動時間を過ごしているのでしょうか?こういった疑問にさえ、部分的には分かったとしても、現時点で答えることはできないのではないでしょうか。

 また、筆者はいつの日か、ニホントカゲと意思疎通を成立させてみたいと思っています。何をもって成立したといえるのかはいまだわかりませんが。観察をしていると、「これは彼ら彼女らのコミュニケーションの一つなのではないか」というような動きが筆者の頭の中に出てきます。しかし、それと同じ動きを筆者がとかげに向かってやってみても、現実にはそっぽを向かれるだけでした。まだまだ修行が必要ですね…。

執筆者:柳原諒太朗


引用・参考文献

  1. 岡本卓. 2021. トカゲ属, 日本爬虫両棲類学会(編), 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版: 132–141.
  2. Okamoto, T., & Hikida, T. 2012. A new cryptic species allied to_Plestiodon japonicus_(Peters, 1864)(Squamata: Scincidae)from eastern Japan, and diagnoses of the new species and two parapatric congeners based on morphology and DNA barcode. Zootaxa, 3436(1): 1–23.
  3. 関慎太郎. 2018. 疋田努(監). 野外観察のための日本産 爬虫類図鑑 第2版. 緑書房: 88–89.
  4. 環境省. 日本のレッドデータ検索システム日本のレッドデータ検索システム (jpnrdb.com). 参照 2023–05–06..
  5. 滋賀県. 「滋賀県で大切にすべき野生生物(滋賀県版レッドデータブック)2020年版」選定種リスト. 参照 2023–04–25.
  6. 京都府. 京都府レッドデータブック2015. 参照 2023–04–25.
  7. 疋田努. 1996. 日高敏隆(監), 千石正一, 疋田努, 松井正文, 仲谷一宏(編), 日本動物大百科5 両生類・爬虫類・軟骨魚類, 平凡社: 74–76.
  8. 広島県. 絶滅のおそれのある野生生物(「レッドデータブックひろしま2021」). 参照 2023–04–25.
  9. 香川県. 香川県レッドデータブック2021. 参照 2023–04–25.
  10. Kidera, N. & Ota, H. 2017. Plestiodon japonicusThe IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T96265272A96265297. https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T96265272A96265297.en. 参照 2023–04–25.
  11. Okamoto, T., Kuriyama, T., Eto., K., Hasegawa, M. 2021. A Preliminary Study of the Morphological and Ecological Characteristics of Plestiodon japonicus (Scincidae, Squamata) on the Danjo Islands, Western Japan. Current Herpetology 40(2): 182–189.
  12. Tsutomu Hikida. 1981. Reproduction of the Japnanese skink (Eumeces latiscutatus) in Kyoto. 動物学雑誌 Zoological Magazine 90: 85–92.
  13. 長谷川英夫. 2017. 爬虫類の寄生虫学, 松井正文(編), これからの爬虫類学. 裳華房: 85–97.
  14. 岡本卓, 栗田和紀, 徳田龍弘, 竹内寛彦. 2022. <特集:日本産爬虫類両生類の分布を巡って> 日本産トカゲ・陸生ヘビ類の地理的分布の概要といくつかの話題. 爬虫両棲類学会報 2022(2): 273–293.

「ニホントカゲ」への2件のフィードバック

  1. こんにちは。トカゲが大好きな小学2年生です。
    家でニホントカゲを5匹飼っていますが、1匹がヒガシニホントカゲにみえます。前額板が離れています。しかし、先生のWEB図鑑では離れているニホントカゲもいる、のですよね。徳島にはヒガシニホントカゲがいる可能性はありますか?教えていただければ嬉しいです。

    1. YanagiharaRyotaro

      質問ありがとうございます。
      回答ですが、徳島にはヒガシニホントカゲは分布しておりません。日本におけるヒガシニホントカゲの分布は大雑把には近畿より北の地域となります。
      四国の徳島県は近畿より南の地域なので、ニホントカゲになります。おそらく、前額板が離れているのはその個体の特徴だと思われます。

      以下に詳しく解説いたします。
      ヒガシニホントカゲ(Plestiodon finitimus)が新たに記載されたのは2012年のことであり、記載論文内でヒガシニホントカゲとその近縁種との主要な形質の違いが述べられています。図鑑で取り上げた前額板の配置の違いはそのうちの一つです。特にヒガシニホントカゲ(青森県の八甲田山の個体を除く)で前額板が離れているものは、ヒガシニホントカゲであると遺伝的にわかっているものの87%であり、ニホントカゲで前額板が接しているものは65%であったことが報告されています。裏を返せば、ヒガシニホントカゲは八甲田山の個体群を除いて、約13%の個体で前額板が接しており、ニホントカゲでは約35%の個体が前額板が離れているということになります。したがって、今回の質問していただいた徳島県の個体はニホントカゲで、前額板が離れている約35%のうちの1個体、ということになると思われます。見つけられたのは少しラッキーだったのかもしれませんね。

      トカゲが大好きということで、今後もトカゲのことをじっくり観察してあげてください。応援しています。

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