サキシマアオヘビ

Cyclophiops herminae (Boettger, 1895)

爬虫綱 > 有鱗目 > ナミヘビ科 > アオヘビ属 > サキシマアオヘビ

  • 成体(石垣島)
概要

[別名] 

サキシマオーナジヤ [10]

[大きさ] 

  • 全長 50 – 85 cm [5,8]
  • 頭胴長 40 – 75 cm [7]

[説明]

  • 八重山諸島の低地から山地の森林に生息する。
  • 主に夜間に活動し、ミミズを捕食する。
  • 卵生。

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧
  • 沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 改訂第3版2017:準絶滅危惧
  • 宮古島市自然環境保全条例保全種(ただし、宮古島市には生息しないと考えられる)
分布

[分布]

  • 八重山諸島の石垣島、西表島、波照間島、小浜島、黒島、竹富島、鳩間島、嘉弥真島、新城島に分布[6]
  • 宮古諸島からも記録がある[1, 10]が、誤りと考えられる。

[生息環境]

  • 低地から山地の森林やその周辺に生息する[5,8]。
分類

[分類]

  • 爬虫綱 > 有鱗目 > ナミヘビ科 > アオヘビ属

[タイプ産地] 

  • 原記載では「おそらく八重山の宮古島」とされるが、タイプ標本以外には宮古諸島での標本に基づいた記録はないため、誤りと考えられる[1,5,7,8]。

[学名の由来] 

  • 種小名は記載者であるドイツの動物学者Oskar Boettgerの妻Hermine Boettgerへの献名とされる[12]。

[説明]

  • 本種はアオヘビ属Cyclophiopsとされるが、近年の分子系統学的研究では、アオヘビ属はナンダ属Ptyasに内含される可能性が指摘されており、本種はPtyas herminaeとして扱われることもある[12]。しかし、指摘の根拠となっている研究[2]ではアオヘビ属のタイプ種であるCyclophiops doriaeや日本産のアオヘビ属は扱われていないため、これらの種の系統的位置は未だ明らかになっていない。そこで、ここでは保守的にサキシマアオヘビをCyclophiops herminaeとして扱っている。
体の特徴

[形態][5,7,8,10]

  • 背面は灰褐色や灰緑色で、胴部にはところどころに小さな黒班が見られることが多い。不明瞭な暗褐色の縦条を持つ個体もいる。腹面や上唇板の下縁は黄白色や淡黄色で模様はない。
  • 頭部が小さく、頸部と幅がほぼ変わらない。
  • 尾長は頭胴長の20–25%程度。
  • 上唇板は8枚、下唇板は7枚。
  • 体鱗列数は普通17列で稀に19列。
  • 腹板は155–168枚で、尾下板は52–64枚。肛板は2分する。

[似た種との違い]

本種と同所的に生息するヘビ類のほとんど(サキシママダラサキシマスジオヤエヤマヒバァなど)は背面にはっきりとした大きな斑紋や縦条を持つため、はっきりとした斑紋をもたないか、あっても小さな黒班程度である本種とは容易に見分けられる。また、本種は頭部が小さく、頸部と幅がほぼ変わらない点でもこれらの種と明確に異なる。本種と同所的に生息するヤエヤマタカチホには背面に模様がない個体もいるが、本種よりも小型であることや、尾下板が一列である点などで、容易に見分けられる。

サキシママダラヤエヤマタカチホ

同属のリュウキュウアオヘビ(奄美・沖縄諸島などに分布)は、本種よりも体型が細長く、体鱗列数がより少ない15列であることから見分けられる。また、リュウキュウアオヘビの方が明るい色をしていることが多い。

リュウキュウアオヘビサキシマアオへビ
生態

[食性]

  • ミミズ類を捕食する[10]

[被食]

  • イリオモテヤマネコ、カンムリワシ、イワサキワモンベニヘビに捕食された例がある[3,11]。

[繁殖]

  • 8月末に、飼育下で8卵を産んだとの報告がある[4]。
  • 野外では8月中旬に得られた礫死体に9個の輸卵管卵が確認されたとの報告がある[9]。
  • 7月末までに産卵を終える種の多い琉球列島の陸生ヘビ類の中では、例外的に産卵期が遅いと考えられている[5]。
その他

[コメント]

  • 日本のナミヘビ科では珍しく太短い体型をしているのがチャームポイントです。

2022年5月公開

執筆者:福山伊吹 


引用・参考文献

  1. Boettger, O. 1895. Neue Frösche und Schlangen von den Liukiu-Inseln. Zool. Anz. 18: 266-270.
  2. Figueroa, A., McKelvy, A. D., Grismer, L. L., Bell, C. D., & Lailvaux, S. P. (2016). A species-level phylogeny of extant snakes with description of a new colubrid subfamily and genus. PloS one, 11(9), e0161070.
  3. Fukuyama, I. & Fukuyama, R. 2020. Sinomicrurus macclellandi iwasakii DEFENSIVE BEHAVIOR and DIET. Herpetological Review 51(4): 878–880.
  4. 亀田和成,2010.サキシマアオヘビの飼育下での産卵.Akamata,(21): 9–10.
  5. 環境省(編). 2014. レッドデータブック2014 ー日本の絶滅のおそれのある野生生物ー 3爬虫類・両生類. (株)ぎょうせい, 東京.
  6. 菊川章. (2019). 沖縄県立博物館・美術館における両生類および陸生爬虫類の標本資料の収蔵状況. 沖縄県立博物館・美術館博物館紀要, (12), 7-14.
  7. 日本爬虫両棲類学会 編. 2021. 新日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版. 彦根.
  8. 沖縄県環境部自然保護課(編)2017. 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編-. 沖縄県環境部自然保護課
  9. 太田英利,1996.西表島における輸卵管卵を持った雌のサキシマアオヘビの観察.Akamata,13: 15–16.
  10. 高良鉄夫. (1962). 琉球列島における陸棲蛇類の研究. 琉球大学農家政工学部学術報告 (9), 1-202.
  11. 戸部有紗, 中西希, 佐藤行人, 和智仲是, & 伊澤雅子. (2020). DNA バーコーディングを用いたアンブレラ種 2 種の食性解析を通した西表島生態系の保全―イリオモテヤマネコ研究グループ―. 自然保護助成基金助成成果報告書, 29, 238-248.
  12. Uetz, P., Freed, P, Aguilar, R. & Hošek, J. (eds.) (2022) The Reptile Database, http://www.reptile-database.org, accessed [29/05/2022]