ゲイヨサンショウウオ

Hynobius geiyoensis Sugawara, Naito, Iwata et Nagano, 2022

両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > ゲイヨサンショウウオ

概要

[英名]

Geiyo Salamander [7]

[大きさ] 

  • 全長  11.1 – 12.1 cm程度 [11]
  • 頭胴長 5.3 – 6.7 cm (オスの成体) [8]

[説明]

  • アキサンショウウオとして知られていたが、近年新種として記載された
  • 広島県と愛媛県の一部のみに分布する
  • 1月から5月に水田の溝や湿地などにコイル状の卵嚢を産む

[保全状況]

  • 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧IB類(アキサンショウウオとして)
  • レッドデータブックひろしま2021:絶滅危惧Ⅱ類(アキサンショウウオとして)
  • 愛媛県レッドリスト2022 :絶滅危惧Ⅰ類(アキサンショウウオとして)
  • 特定第二種国内希少野生動植物種(アキサンショウウオとして)
  • 愛媛県特定希少野生動植物
分布

[分布][8]

  • 広島県豊田郡大崎上島と愛媛県にある高縄半島の一部

[生息環境]

  • 標高9.6〜185 m(平均約51 m)の丘陵地の水田や湿地の周辺に生息する[8]
分類

[分類]

  • 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > ゲイヨサンショウウオ

[タイプ産地] 

  • 広島県豊田郡大崎上島町[7]

[学名の由来]

  • 種小名のgeiyoensisは本種が生息する広島県中西部と愛媛県を合わせた地域をかつて「芸予」と呼んでいたことに由来する[7]。

[説明]

  • 本種はかつてカスミサンショウウオ大崎島型または島嶼型および四国型とされていた[2][3][4][5][6]。
  • 2019年に遺伝的、形態的な違いに基づき、それまでカスミサンショウウオとされていた島根県・広島県・愛媛県の一部の個体群がアキサンショウウオとして新種記載された[1]。
  • 2022年にアキサンショウウオに含まれていた一部の系統がゲイヨサンショウウオH. geiyoensisヒロシマサンショウウオH. sumidaiとして記載された[7]。
  • Sugawara et al., (2022)では、ミトコンドリアDNAのデータに基づき本種は広島県東広島市、竹原市、呉市にも分布し、一部地域ではヒロシマサンショウウオと同所的に生息するとされていたが、Tomimori et al., (2023)の核DNAを用いた研究でそれは否定された[7][8]。
  • 本種はヒロシマサンショウウオに近縁である[8]。
体の特徴

[形態][7][8]

  • 背面は淡褐色で小さな黒斑が散らばる。腹面は背面よりも色が明るく、白点が密に散らばる。普通、尾の上面の黄褐色の条線は不明瞭で、尾の下面ではより不明瞭になる。
  • サンショウウオ属の近縁種の中では大型種で、胴や尾は比較的長い。体側に沿って前後肢を伸ばしても指はほとんど重ならない。尾は頭胴長の70–90%程度の長さ。肋条数は12–13で普通12。
  • 第五趾は発達する。

[似た種との違い][8]

  • 2019年に記載されたカスミサンショウウオ種群(カスミ、ヤマトセトウチサンインヒバイワミアブヤマグチ)の他種とは、大型であること、胴や尾が長いこと、頭長が短いこと、肋条数が普通12であること、尾の上下面に黄色の条線を持たないこと、卵嚢外皮に筋が入らないことなどで識別できる。また、これらの種とは分布域が重ならない。
  • 近縁なヒロシマサンショウウオ、アキサンショウウオとは、本種の方が大型であること、第五趾が発達することで識別できる(本種のオスは頭胴長53–67 mm程度なのに対し、ヒロシマサンショウウオのオスは36–57 mm程度、アキサンショウウオのオスは41–58mm程度)。
ゲイヨサンショウウオ
ヒロシマサンショウウオ
アキサンショウウオ
生態

[繁殖]

  • 繁殖期は広島県では1月~4月、愛媛県では12月〜5月で、小川や水田の溝、湿地などに産卵する[7][8][9][10]。
  • 愛媛県では、12月中に成体は繁殖地に移動し、1月中旬から産卵を行うことが報告されている[9][10]。

[幼生]

  • 幼生の体色は黄色味のある茶褐色で黒褐色の斑点が密集する[10]。
  • 愛媛県では、幼生は産卵から約1か月半で孵化し,7月末までに変態し陸上へ上がることが報告されている[9][10]。
  • 愛媛県では、変態時の幼体の全長は約5.2cmだったことが報告されている[10]。

[卵]

  • 卵嚢はコイル状[8]。
  • 一腹卵数は120ほど[9]。
  • 休耕田や畑地のほかイノシシのヌタ場に産卵することもある[10]。

執筆者:國廣由人


引用・参考文献

  1. Matsui, M., Okawa, H., Nishikawa, K., Aoki, G., Eto, K., Yoshikawa, N., Tanabe, S., Misawa, Y., & Tominaga, A. (2019). Systematics of the widely distributed Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and its closest relatives. Current herpetology, 38(1), 32-90.
  2. 大川博志, 奥野隆史, & 宇都宮妙子. (2005). 阿武・津和野地方および山口市に分布するカスミサンショウウオの一集団. 両生類誌, 14, 11-14.
  3. 大川博志, 奥野隆史, & 宇都宮妙子. (2007). 西日本におけるカスミサンショウウオの3つの大きなグループ. 爬虫両棲類学会報, 2007, 58–59.
  4. 大川博志, 奥野隆史, & 宇都宮妙子. (2009). 西日本のカスミサンショウウオの後肢趾の変異. 爬虫両棲類学会報, 2009(1), 12-18.
  5. Okawa, H. & Utsunomiya, T. (1989). Hynobius nebulosus from Hiroshima Prefecture. p. 142–146. In: Matsui, M., Hikida, T. and Goris, R.C. (eds.), Current Herpetology in East Asia. Herpetological Society of Japan, Kyoto.
  6. 大川博志 & 宇都宮妙子. (1997). カスミサンショウウオ後肢趾の骨. 日本爬虫両棲類学雑誌14(4), 214.
  7. Sugawara, H., Naito, J. I., Iwata, T., & Nagano, M. (2022). Molecular phylogenetic and morphological problems of the Aki salamander Hynobius akiensis: description of two new species from Chugoku, Japan. Bulletin of the Kanagawa Prefectural Museum (Natural Science), 2022(51), 35-46.
  8. Tomimori, Y., Matsui, M., Okawa, H., Nishikawa, K., Tanabe, S., & Kamasaka, R. (2023). Reassessment of species delimitation using nuclear markers in three lentic-breeding salamanders from the Chugoku District of Japan (Amphibia: Caudata: Hynobiidae). Zootaxa, 5293(1), 145-160.
  9. 板野 賢大, 藤原 陽一郎, 池内 和也, 小林 真吾, & 大森 浩二. (2016). 愛媛県今治市におけるカスミサンショウウオ(Hynobius nebulosus) の繁殖生態の研究. 愛媛県総合科学博物館研究報告, 21, 1-18.
  10. 藤原陽一郎, 池内和也, & 小林真吾. (2011). 愛媛県におけるカスミサンショウウオの新産地と生息環境に関する考察. 愛媛県総合科学博物館研究報告, 16, 59-71.
  11. 愛媛県. 2014. レッドデータブック2014ー愛媛県の絶滅のおそれのある野生生物― 爬虫類・両生類. カスミサンショウウオ. 愛媛県.

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です