Hynobius akiensis Matsui, Okawa et Nishikawa, 2019
両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > アキサンショウウオ
概要
[英名]
[大きさ]
- 全長 7 – 10 cm程度 [11]
- 頭胴長 4.1 – 5.8 cm [11]
[説明]
- カスミサンショウウオ安芸型または移行型として知られていたが、近年新種として記載された
- 広島県と島根県の一部に分布する
- 3月から4月に水田の溝や湿地などにコイル状の卵嚢を産む
[保全状況]
- 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧IB類
- レッドデータブックひろしま2021:絶滅危惧Ⅱ類
- 改訂しまねレッドデータブック2014:準絶滅危惧種(カスミサンショウウオとして)
- 特定第二種国内希少野生動植物種
- 広島県東広島市天然記念物
分布
[分布]
[生息環境]
- 標高260〜930 m(平均約450 m)の水田や湿地の周辺に生息する[2][11]
分類
[分類]
- 両生綱 > 有尾目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > アキサンショウウオ
[タイプ産地]
[学名の由来]
- 種小名のakiensisは本種の分布域の中心である広島県西部の地名である安芸に由来する[2]。
[説明]
- 本種はかつてカスミサンショウウオ安芸型(一部の文献では安芸型をさらに三次型と広島型に分ける)または移行型とされていた[3][4][5][6][7]。
- 広島県三次市の個体群はアベサンショウウオと同定されていたことがある[1][8]。
- 広島県大崎上島の個体群は大型であるなど、他地域の個体群と形態的に異なっているとされ、大崎島タイプとされたこともある[6]。
- 2019年に遺伝的、形態的な違いに基づき、カスミサンショウウオから分けられ、新種として記載された[2]。
- 記載時には、本種は核DNAを用いた解析では一つにまとまる一方で、本種内にはmtDNAが分化した複数の系統が存在するとされ、さらにそれらの一部の系統はヒバサンショウウオH. utsunomiyaorumと姉妹群となっており、アキサンショウウオはmtDNAの系統樹上では多系統群となっていた[2]。
- 2022年に本種に含まれていた一部の系統がゲイヨサンショウウオH. geiyoensis、ヒロシマサンショウウオH. sumidaiとして記載され、アキサンショウウオはmtDNAの系統樹上でも単系統群となった[10]。
- 核DNAを用いた解析ではゲイヨサンショウウオやヒロシマサンショウウオと一群を成す一方、mtDNAではヒバサンショウウオやイズモサンショウウオ H. kunibikiに近い[11]。
体の特徴
[形態][2][11]
- 背面は普通、黄褐色で小さな黒斑が散らばるが、暗青色や暗褐色で黒斑を持たない個体も存在する。腹面は灰褐色で、銀白色の小点が散らばる。普通、尾の上下面に黄色の条線を持たないが、尾の上縁はしばしば黄褐色になる。繁殖期のオスの喉の下面はあまり白くならない。
- 前後肢は比較的短い。尾は頭胴長の76%程度の長さ。肋条数は11–13で普通12。
- かつて移行型とされていた広島県北西部の個体群では、4割程度の割合で第五趾を持たない。それ以外の個体群ではほとんどの個体が第五趾を持つが、第五趾の発達は悪い。
[似た種との違い][2][11]
- 2019年に記載されたカスミサンショウウオ種群(カスミ、ヤマト、セトウチ、サンイン、ヒバ、イワミ、アブ、ヤマグチ)の他種とは、小型であること、胴が長いこと、前後肢が短いこと、肋条数が普通12であること、尾の上下面に黄色の条線を持たないことなどで識別できる。また、これらの種とは分布域が重ならない。
- 2022年に記載されたゲイヨサンショウウオとは、本種の方が小型であることで識別できる(ゲイヨサンショウウオは頭胴長6 cm程度なのに対し、本種は5 cm程度)。形態的にはヒロシマサンショウウオに最も似るが、眼間距離や前後肢の長さが本種の方が長いという点が異なる。また、これらの種とは分布域が重ならない。
生態
[繁殖]
- 繁殖期は3月~4月で、流れの緩やかな沢や水田の溝、湿地などに産卵する[1][2][9][11]
[卵][2][11]
- 卵嚢はコイル状で皺が入る。
- 卵数は2–58。
- 落ち葉や木の枝などに産み付けられる。
執筆者:福山伊吹
2023年11月加筆(ゲイヨサンショウウオ、ヒロシマサンショウウオの情報を追加し、修正)
引用・参考文献
- 比婆科学教育振興会編. (1996). 広島県の両生・爬虫類. 中国新聞社
- Matsui, M., Okawa, H., Nishikawa, K., Aoki, G., Eto, K., Yoshikawa, N., Tanabe, S., Misawa, Y., & Tominaga, A. (2019). Systematics of the widely distributed Japanese clouded salamander, Hynobius nebulosus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and its closest relatives. Current herpetology, 38(1), 32-90.
- 大川博志, 奥野隆史, & 宇都宮妙子. (2005). 阿武・津和野地方および山口市に分布するカスミサンショウウオの一集団. 両生類誌, 14, 11-14.
- 大川博志, 奥野隆史, & 宇都宮妙子. (2007). 西日本におけるカスミサンショウウオの3つの大きなグループ. 爬虫両棲類学会報, 2007, 58–59.
- 大川博志, 奥野隆史, & 宇都宮妙子. (2009). 西日本のカスミサンショウウオの後肢趾の変異. 爬虫両棲類学会報, 2009(1), 12-18.
- Okawa, H. & Utsunomiya, T. (1989). Hynobius nebulosus from Hiroshima Prefecture. p. 142–146. In: Matsui, M., Hikida, T. and Goris, R.C. (eds.), Current Herpetology in East Asia. Herpetological Society of Japan, Kyoto.
- 大川博志 & 宇都宮妙子. (1997). カスミサンショウウオ後肢趾の骨. 日本爬虫両棲類学雑誌14(4), 214.
- 佐藤井岐雄. 1943. 日本産有尾類総説. 日本出版社. 大阪. 536p.
- 関慎太郎 & 井上大輔編. (2019). 特盛山椒魚本. NPO法人北九州・魚部(ぎょぶる編集室).
- Sugawara, H., Naito, J. I., Iwata, T., & Nagano, M. (2022). Molecular phylogenetic and morphological problems of the Aki Salamander Hynobius akiensis: Description of two new species from Chugoku, Japan. Bulletin of the Kanagawa Prefectural Museum (Natural Science), 2022(51), 35-46.
- Tomimori, Y., Matsui, M., Okawa, H., NIishikawa, K., Tanabe, S., & Kamasaka, R. (2023). Reassessment of species delimitation using nuclear markers in three lentic-breeding salamanders from the Chugoku District of Japan (Amphibia: Caudata: Hynobiidae). Zootaxa, 5293(1), 145-160.
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